STEP3:インド人を左にブララカ
柳ケ瀬を中心にジャンヌ達の金策は続く……700万までの道のりはまだ長い……
「せんおーけん!」
ゲームセンターに必殺技がこだまする。
オーと歓声をあげるギャラリー。みな、歴戦の猛者達だ。
今日は、タカシマヤの前のゲームセンターにて、伝説的格闘ゲーム「ハイパーファイティングウォリアーズ」の大会が開かれている。トーナメント形式のこのアーケードゲーム大会は20世紀末から毎年ひっそりと開かれているらしいが、ひっそり開かれているにも関わらず優勝者には何と10万円の賞金が与えられるらしい。これだけ参加者が集まるのも無理の無い話だ。どこからその資金が出るのか不思議なのだが、噂だと、某大手ゲーム雑誌が秘密裏に出資しているらしい。
私とまく朗もクエスに言われて参加したが、プロゲーマーばかりの面子に勝てるはずもなく、2ラウンド対決の試合を1ラウンドもとれないどころか体力の半分も奪えず1回戦で敗退した。残ったのは言い出しっぺのクエスだけで、さすが毎年参加しているだけあってウメ◎ラ並みに強く、この準決勝まで勝ち進んだ。こんなに強いんなら、金髪美女プロゲーマーとして売り出せば700万くらい稼げるんじゃないかと思わなくもない。ちなみに、使用キャラは「ファーロン」と言う白チャイナ服の中華美女なのだが、クエス自体がゲームの中の人みたいなので妙な感じだ。
そのクエスの今の相手は真っ赤なバンダナを頭に巻いたあごひげをどっと生やした元傭兵みたいなワイルドな男性(以降バンダナと略す)なのだが、使っているキャラクターはバランス型の美少年格闘家「バシル」で、これまたギャップがすごい。
「せんおーけん! せんおーけん!」
遠距離からの攻撃俗称「飛道具」を連発するバンダナ。対するクエスの使用キャラクターは遠距離からの攻撃手段をいっさい持たないため、回避するか守るしかない。しかも、ガードする場合は大半の格闘ゲームに共通することだが、少しづつ体力が減らされていく。超有名格ゲーⅢのブロッキングようにどんな攻撃でも完全に防御する手段はこのゲームには無いようなので、実に姑息な手であるが、有効な手と言える。いや、高レベルな相手に勝つにはは手段なんか選べないのだろう。これは遊びではなく、「死合」なのだ。2次元の空間内ではどんなことをしてでも勝たねばならない。勝つために出来ることは全てする。それが、ゲーマー魂! ……と、プロゲーマー神高氏が雑誌の対談で語っていたが、この様子を見ると、実に納得できる。
ガシン
ガシン
クエスは、攻撃を、ひたすらに防御する。
素人考えなら、ファーロンのような機動性とジャンプ力の高い相手なら、飛道具を飛び越して相手の懐に潜り込むのが有効に思えるのだが、このどこかの餓狼の彼女みたいなアメリカンな格好をした金髪美女はその特性を全て殺している。こんなことして良いことがあるかといえば、画面下にある「パッションゲージ」と呼ばれる、奥義を使うために必要なメーターが溜まる事だろう。これが完全にたまれば究極奥義「パッショナブルドライブ」が一度だけ使用可能で、これは体力が少ないほど効果が上がる。ただ、この奥義はスキが大きいなど欠点が多く、相手にヒットさせるのはなかなか難しい。特に、このファーロンの奥義に至っては、相手の至近距離まで近づかないと当たらないし、当たっても、ファーロンは攻撃力が低いキャラのため、ほぼMAX状態の相手の体力を削りきることは難しい。かなりの体力差ができ、私の目から見ればクエスは非常に敗色濃厚なのだが、当の本人からは焦りの色が全く見られない。
ピキーン!
パッションゲージがMAXになった。すると、攻撃を全くしなかったクエスが、動く。レバーを軽快に動かし、飛道具を飛び越える、蝉がいきなりこちらに向かってくるような強襲感!
ガッ。
相手の上半身にめり込むように、ドットで描かれた美脚が命中する。いわゆる「めくり攻撃」だ。この攻撃が当たると相手は次の攻撃に対して操作入力ができない。2回連続してヒットしてしまうのである。しかも、これは2回どころか3回4回と続くこともある。
ガッ
バシ
バシ
バシ
ガン
ガッ
ガガッ
「つくもきゃく!」
ガガ
ガガ
ガガ
ガガ
必殺技が含めて怒濤の16ヒットいわゆる「コンボ」である。攻撃力の低いキャラなのに、この一連の流れで相手の体力の半分をごっそり奪い取ってしまった。まく朗の情報では、ファーロンというのは素人には非常に使いにくいキャラだが、こと玄人になると、最強クラスの実力があるらしい。この隙の無い連続攻撃は、まさに、それを証明していた。
相手のキャラクターは、フラフラして動けない。いわゆる「ピヨリ」というもので、今のような猛攻をまともに受けるとこうなってしまう。この状態は、直るまで本当に何もできないため、相手の思うがままだ。
ガシッ
ガシッ
ピロリーン!
小パンチ、しゃがみ小キックを当てたあと、間髪入れずにクエスが奥義を放つ! 前の攻撃後の僅かな硬直を、タイミング良く次の技を出して無くす高等技術「キャンセル」だ!
「えんが、りゅうぶじん!」
「ふぅわー!?」
雄叫びあげて、美少年格闘家バシルは2次元の地に伏せる。画面にはKOの文字。クエスは一度の猛攻で相手の全体力を奪い去ったのだ。こう言う当たったが最後回避不可能な連続攻撃を「デスコンボ」と言うわけだが、しかし、それだけに疑問が残る。この大会の参加者のほとんどこのゲームを研究し尽くした人間達ばかりで、とりわけ、今のクエスの相手は準決勝に進むほどの相手なのだ。こんな、連続攻撃が有ることを知らないとは思えないのだ。気になる。
この逆転劇が精神的に効いたのか、2ラウンド目は、クエスが圧勝した。すると、相手のバンダナ男は立ち上り、クエスに近づいた。そして強面の顔で生の武力で襲いかかるかと思いきや、その顔を緩めくしゃりと笑った。
「いやー、ハギワラさん流石ですねー! ガン待ちして当たり判定ドット単位でめくるんですもん! 予想の上をいってましたわ」
「あはは! いやいやサンゾー君も相変わらず飛道具ノンカン入力完璧だったよ。ヨユーでプロゲーマーやれるやん」
ふむ、言葉の意味はよくわからんが、どうやら見た目以上に高等な技術を使っていたようだ。
「いやいやーハギワラさんこそプロゲーマーになればガッポリ設けられるんじゃないすか? 他の格ゲーやらんのが惜しすぎますよ!」
「やーやー。ウチはこれ一筋やからな。他のゲームでは完全再現はでけへん。そのかわり、これにかけては誰にも負けへんつもりや」
「さすがハイファイを極めし者ですね! 決勝、頑張ってください!」
「あったりまえよ!」
そう言ってクエスとバンダナはグッと握手をした。戦った相手を称え会う熱い光景に、不覚にもじんと感動のようなものを覚えてしまった。敵味方、性別、あらゆる壁を打壊す戦場の絆など前世でも稀だ。今は亡きアルファデよ、ジスパルよ、喜べ。まだ君達の志は死に絶えてはいないようだぞ……
時を待たずして、決勝が始まった。相手は細身で身長の高い男性。けして大きくない両眼は、一見はぼんやりとしているが、眼その奥にあるどんとした落ち着きを私には隠せていない。一種それは仙人のようであり、賢者のようである。もしかして、私と同じく何らかの伝説上の英雄の生まれ変りなのではという、気迫が感じられる。
「ふわー、やっぱりナカハシさんが来ましたか」
「ん? まく朗は彼の事を知っているのか?」
「むしろジャンヌ様が知らないのが以外ですよ。あの人は、格ゲー好きなら知らない人はいないプロゲーマーの1人です。世紀末頃、ストⅢ大会で、あのカメハラさんを倒した事もある屈指の実力者なんです。名前変えられてますけど、カメハラさんの自伝漫画第5巻にも出てきますよ」
「ああ、カメハラの漫画は読んだ。あの、ザンギ使いのサラリーマン風の男のモデルなのか」
「そうです。投げ技を極めし男なのです」
「漫画では相当な強さだったが、決勝にいると言うことは、あれがフィクションではない事を意味するのか」
「そのとーりです。最近表舞台から姿を消してて、一部のウワサではラスベガスに潜伏してるとか言われてたんですが、こんなとこにいたんですね~」
ここまで、クエスの試合しか見ていなかったが、あの世界最強クラスのゲーマーであるカメハラに勝つ程の実力と言われると、どれだけ強いのか、がぜん興味が湧いてきた。
「クエ……じゃなくてナカハシさんー相手はヤバイですよープロですよー」
「ははは! まく朗ちゃん、初めて戦う相手だけど、ウチが負けへんよ。このハイファイという土俵の上ではこっちに分があるに」
そう自信満々でいる金髪美女の裏側のもうひとつのゲーム筐体の前に座る男性は、不適な笑みを浮かべていた。こちらも非常に余裕がみられる。流石は決勝戦と言う感じだ。
最強であろう二者の究極であろう決戦、そのラウンド1が始まった。
「ウリアッ!」
プロゲーマーナカハシの操る筋肉粒々の緑色したアメリカンヒーロー的なキャラクターであるバンデラは、そう叫びながら片腕をL字にした上で体を回し前進する。対するクエスの操るファーロンはしゃがんでガード。先の試合と同じく待つつもりのようだが、恐らく今回の相手は飛道具を持っていない。見た目からして接近して投げるタイプのキャラだ。格巨漢のムキムキして鈍重な見た目をした者が投げキャラなのは、最早記号レベルで格闘ゲームのお約束なのである。
「ふん!」
早速、ファーロンはバンデラに掴まれてブレーンバスターにかけられ、頭から地面に叩きつけられた。体力の20パーセントくらいが噴き飛んだが、他のゲームの投げ技よりは威力が押さえられている印象だ。ちなみに、20世紀の格ゲーのほとんどは、投げ技のキャンセル……いわゆる回避ができない。掴まれたら必ず攻撃が当たるのが旨味なのだ。その代わり、至近距離にならないと決まらない上、技を入力するのが難しく、ちょっと格ゲーをかじった人間ではこのような投げキャラを使いこなすのは困難を極める。玄人だからこそ、こんな決勝戦で選択できるのである。
そんな投げキャラに画面端に追い詰められるファーロン。ジャンプ力と素早さに優れたキャラクターなのだから、得意の2段ジャンプで飛び越えられそうなのだが、クエスはなぜかそうしない。まさかの真っ向勝負を挑んだ!
「つくもきゃく!」
連続蹴りがバンデラの胴体にヒットする。しかし、相手はガードして、ダメージを微々たるものに押さえた。
「ウリアッ!」
カウンターのラリアットが炸裂する。えらく守りが薄いクエスだが、そこには策謀を感じさせる。今回もゲージを溜めて一発逆転をするつもりなのだろうか?
「ハンガー!」
今度は、高く飛び上がってからのDDTのようなプロレス技でザンギュラは中華娘を地面に叩きつける。一方的な展開だ。
「つくもきゃく!」
クエスは、何故か初心者並の単調な攻撃しかしない。もう体力がほとんど無いのに……
「つくもきゃく!」
「ふんっ!」
「きゃーっ!」
結局、ほとんどダメージを与えられないままクエスは第1ラウンドを奪われた。デスコンボも決めず、下手になったと言うよりわざと完敗したように見える。伝説のプロゲーマー相手に一体どういうつもりなのか、全く理解しがたい。
「へー、こりゃおもしろいなあ! ザンギュラ使うだけでもめずらしいのに」
クエスは嬉しそうに首を左右にコキコキした。アドバンテージを奪われたのに、歴戦の戦士のようなこの余裕はどこから来ているのか。一体、今の1ラウンドで何がわかったと言うのだろう。最早、人智を越えているレベルだ……ただ、私もこの前、聖剣フラガラックを手にドラゴンと戦った身なのであまり人のことは言えないわけだが……
「今のラウンドで力量測るなんて、まるで硬度10ダイヤモンドアームな完璧超人みたいですね~」
まく朗の言葉に頷く。
「わざと、だよな」
「それだけ手強いんですよナカハシ名人は。ちょっとわかりにくかったですけど、めちゃくちゃプレッシャーをかけてましたし、下手に攻めたらたぶん全部カウンターされてフルボッコでしたね。キャラ相性も劇的に悪いですし。」
「なるほど」
「せめてチュンリみたいに気功技が使えたらいいのに、ファロたんは、硬派にリーチの短い技ばっかで接近戦しかできませんし。九十九脚だけなんですよねーある程度の距離から当てられて隙が少ないのは。そもそも、ファロたんはどっちかと言うとネタレベルでガチキャラじゃないから決勝までこれる時点でクレイジーなんですけど」
「え、そんなに弱いの?」
「ジャグチーの次に弱いはずですよ。」
「……」
続く2ラウンド目。クエスはその牙を剥く。
開始早々跳びはねたファーロンは、その機動性とジャンプ力を最大発揮して画面ないを縦横無尽に動き回りはじめた。初心者ならこれだけで撹乱されてしまいそうなスピードだ。しかも、相手は鈍重なキャラクターなのである。ただ、それだけで有利になるほど甘くはない。ただぴょんぴょん飛び跳ねていても相手の体力は減らないし、捉えられたら投げられる。しかも、このバンデラはいわゆる対空投げを持っていて、ジャンプした相手を投げられる。ちなみに、私は一回戦でバンデラと対戦し、それを身をもって知ったのであった。
「つくもきゃく!」
相手と一定の距離になると、ファーロンはお得意の乱れ蹴りをはなつ。そして、やはりガードさせる。体力は何とか目視できるくらいしか減らない。ただ、1ラウンドと違うのは、カウンターを食らわない事だ。技を出した後、ファーロンはすぐに後方にジャンプして攻撃させない。そして、またぴょんぴょんと飛び回る。
「つくもきゃく!」
蝶のように舞い蜂のように刺すとはまさにこの事だった。ガードの上から蹴りで僅かにダメージを与えて退き、また隙あらば乱れ蹴る。ダメージを一切受けず、緻密に、その一撃離脱戦法を完璧な操作で一切の無駄なくクエスは行う。対空投げも、普通の投げも、ラリアットも受けないのは射程をうまくはずしているのだろう。攻撃が当たらないバンデラは、ただの動く的である。例えプロゲーマーが操っていたとしても。
「ターイムオーゥバァー」
2ラウンド目は、結局時間切れで終わった。この場合、残りの体力が多い方が勝つ。つまり、ノーダメージであった。クエスの勝利である。何か卑怯臭い戦い方だったが。勝ちは勝ち。お互いに仕事をさせず、1対1の同点にして最終ラウンドを向かえる。まさに天王山。ワーテルローの戦いである。
「ファイナルラウーンド、ファイト!」
クエスはまた、開始早々の跳躍により敵を翻弄しようとした。しかし、プロゲーマーナカハシは甘くない。
バシッ
ジャンプして、チョップを繰りだしファーロンを叩き落とす。そして、鈍重でジャンプ性能が低いバンデラが、飛び跳ねはじめた。クエスと同じように画面を動き回る手に出たのだ!
「ヤアッ!」
「フンッ!」
お互いに攻撃を回避し、隙あらば攻撃をする。ヒットアンドウェイの連続はさながら忍者のようだ。体力はほぼ同じように減って行く。互角である。
「やるなあ! こりゃあ熱いで!」
クエスの額から汗が零れ、照される。
どよめくギャラリー達。この戦いがとんでもなくレベルが高いのか、ヤジらしきものはもちろんのこと、余計な言葉はそこには無い。あるのは、驚きのあまり漏れ出るおーと言う声のみである。それが、重なりあってざわついているのだ。
「つくもきゃく!」
「フンガー!」
体力も、お互いほぼ均等にじりじりと減って行く。そして、遂に20パーセントを切った。必殺技級の攻撃を食らえば、即敗北につながる。しかも、奥義を出すパッションゲージは最大だ。
「フンガーー!!」
バンデラの体が光り輝く。先にしかけたのはプロゲーマーナカハシ。ただ、前にどしどしあるくその動きは隙だらけだ。この間に前方にジャンプしてしまえば背後はがら空きのように見えるが、クエスのファーロンはそれをしないどころか後方に飛んだ。やはりそこは玄人。出来ない理由があるのだろう。
「えんてんしゅう!」
バンデラ技が不発に終わった瞬間、狙いを澄まして回転蹴りを
食らわせる。しかし、その一撃では体力を奪い尽くせなかった。そして、それは、痛いカウンターのリスクを生み出す。私はそう思った。しかし……
「てやあっ!」
ファーロンは自分よりはるかに大きな相手を、投げた。投げが得意なキャラに投げをしかけたのだ。グワウと言う声を出して、バンデラは地に倒れる。
「ファーロン、ウィン!」
ギャラリーからパチパチと拍手が起こった。プロゲーマーナカハシとクエスは立ち上り、お互いの方に向かった。
「ここまで、極めているなんてね」
「あはは! からパショから攻めようと思うたのは甘かったな」
「いや、ファロは飛びリュウブがあるから警戒したんだけど先を読まれてたか」
「いやいや、バンデラでここまで張り合うんやから大したもんやて。流石はプロゲーマーさんやな」
お互いの強さを認めたところで、2人は握手をした。実にスポーツマンシップに乗っ取った行為だ。このような光景を見ると、将来的にゲームがオリンピック種目になる可能性は否定しがたいものがある。
無事10万円を手にした我々は、そのあと、柳ケ瀬で昭和から営業する焼きそば屋で小さな祝勝会を開いたのであった。よく考えると、今回私は、ちょっとゲームをしただけで何も仕事をしていないのだが、気にしないことにする。




