STEP2:ゆるキャラ開発
クエスの金策作戦第2弾! 700万はまた遠い
……会社員(平)の一年分の給料まるごとブッこんでも全然足りません(涙)
「さてー」
晴天の下、柳ケ瀬の外れにある謎の資材置き場で、クエスはパンと手を叩いた。る
「今日は何をするんだ?」
「今日は、ズバリ! 2人にはゆるキャラをやってもらいます!」
「……」
ゆるキャラは色んな市町村やメーカーのマスコットキャラクターで、中でも何だか緩いデザインをしたものをさす。緩さが重要であり、可愛いとは限らないのがポイントだ。声を出すか出さないかも重要で、黒い熊本熊みたいなのは喋らなくて正解だし、どこかのの元非公式の甲高い声を出す梨みたいに喋くりが持ち味になる輩もいる。生かすも殺すも色々と作り手のセンスが問われる存在なのである。
「わー、なんか楽しそうです」
「そやろ? 名付けて≪柳ケ瀬の新ゆるキャラで街を活性化しよう作戦≫やで!」
「……」
やはりまったくひねりが無い上にダラダラ長いネーミング。もしかして、指摘されたいがため、わざとやっているのだろうか? だとしても、残念だが私は何も口出しをする事は、無い。もしどうしても指摘されたくば大須演芸場に居ると言う芸人を呼ぶがよろしかろう。
「えーと、私たちが、やるんですね?」
「そだよ。なーに、そんな難しくないって顔とか隠れるし」
「それなら安心ですね! あ、でも全身着ぐるみだとトイレに行くの大変じゃないですか?」
「まー、そんときゃそんときだよ。まー最悪もらしても構わんし」
「わー鬼畜ですね! じゃあ、最悪の場合もらします~」
しかし、柳ケ瀬のゆるキャラと言うと……かつて、頭に箱をかぶっただけの女性ゆるキャラがいたのを思い出す。柳ケ瀬には疎いがあれはたまにニュース番組にも出ていたから知っている。
その名は「やなな」とか言ったはずだ。
結構人気があったのに、何年か前に惜しまれつつも引退をした。理由は知らぬが、おそらく柳ヶ瀬の活性化に一役買っていただろう。それだけに、それに代わる新しいゆるキャラを打ち出そうと言うクエスの気概はあながち否定できないものがある。どのみち拒否しても意味はないので素直に乗ってみるとするか。
「ジャンヌ様もいいかね?」
「ああ」
「なら少し待っとって」
そう言って、ゴミ屋敷もとい謎の資材置き場にエリスはガサゴソと入っていった。よくあんな危なっかしい場所に入る勇気があるものだ。
「よーしあったあった!」
数分後、クエスがその姿を現すと、傍らに四角い何かを持っていた。正直、まさかとは思うが、本気なのだろうか?
「じゃーん!」
「わー、箱に顔が描いてあります!」
「どや? うちの美術的才能は」
「もしかして、これをかぶるんですか?」
「そや、これを頭にかぶれば、まく朗ちゃんも柳ケ瀬の新ゆるキャラ≪ヤナガセーヌ≫になれるんや!」
「わー、なんかやななみたいですー」
いや、みたいではなく、やななそのものではないだろうか。俗に言うモロパクリに近い。しかも、顔が本家より可愛くないのが、パチモノくさく尚更に質が悪い。「模倣をしないものは何も生み出さない」と言うような事を言った芸術家がいたとは思うが、これについてそれが適用できるかと言えば相当怪しかろう。もっとも、だからといって制止を促すつもりは無いわけだが。
「んじゃ、まく朗ちゃんは≪ヤナガセーヌ≫な」
「了解です~じゃあ、ジャンヌさまは?」
「今からまた持ってくるわ」
そう言って、クエスは再びゴミ屋敷に入って行き、白い何かを持って戻ってきた。
「じゃ、天下のジャンヌ様はこれを被ってくれ」
「……」
紙で作ったのか凄く雑な作りだ。そして、ちゃんと保管していなかったのか全体的なしわしわ感が尋常ではない。小学生の御輿のハリボテ人形の方が遥かに出来が良いだろう。正直抜群に汚いので着用は遠慮願いたい。だが、これもガブリエルブレインのためだ仕方があるまい。
「ん、嫌か?」
「うん……ああ……構わない……」
「じゃ、よろしく」
シワシワのそれをガバッと被る。ゲホッ……何か煤けたような臭いが中に充満している。実に不衛生だ。ただ、よくよく考えればそれは転生した今だから思うだけで、ドンレミはじめかつてのフランスの農村は道なりに馬糞まみれであったし、オルレアンで使っていた鎧や鎖帷子なんぞは洗うことは一切泣く、汗臭かった。また、当時のジルをはじめとした戦士たちも昼間返り血を浴びていながら風呂にも入らぬような奴等も多かったため、とにかく色々と今とは比較にならないほど臭く汚く不衛生であった。随分とこの殺菌思考な世の中にかぶれてしまったようだ。ここは、かつての心を取り戻し挑むとしよう。
「よーし、似合っとるで」
空いた丸い2つの穴から、クエスと頭に箱を被った滑稽な姿のまく朗を見る。こんな仮装じみた事は、ジケル砦潜入戦の時以来だ。自らの姿を隠し行動するというのは、恥ずかしくはないため気が楽だが、どんな姿になっているのかわからないので気にかかる。
「ジャンヌ様、オバQみたいです!」
ああ、なるほど。
どうせクエスの事だから、なんらアレンジしてはいまい。藤子先生怒らないでください。ああ、この愚かな冒涜修道女には、罰として先生の名著である漫画ゼミナールをトキワ荘で3日3晩熟読させたいものだ。実にそう思う。
「では、ヤナガセーヌちゃんにYタロウ君、今から柳ヶ瀬を練り歩いて、皆に顔を覚えてもらうで!」
「それってお金稼げるんですか?」
「まー、言ってみたらわかるよ」
私たちは、狭くなった視界を気にしながら柳ケ瀬商店街の中心部に向かった。
祝日と言う事もあってか、アーケード街には平日よりかは人がいる。そして、その視線がこちらに集まってきた。
「みなさーん! こんにちわー!」
歌のお姉さんみたいな、慣れた声色でクエスは皆に語りかける。小さな子供が興味本位ですぐに近づいてくるあたり司会業には向いている気がする。見た目からして並みの芸能人にひけをとらないし、タレントオーディションなど軽く受かりそうなものだ。それをせずに地下教会の修道女を貫くのは、単に自覚が無いのか、それとも信仰心によるものなのか……いや、違う。恐らくはガブリエルブレインが大きく関わっているのだろう。世界の理
を外れし禁断の品を、クエスは守らねばならない。その役目を終えてもなお、管理する必要があるに違いない。
「わー!」
小学生らしき子供たちが、きゃっきゃ言いながら私を指差す。
この杜撰な着ぐるみは手を出すところもないため、私ができる反応は、前後左右に体を振る事しかない。とりあえず、できる限り体をくねくねさせてみた。
「うわっ、キモっ!」
「スゲー気持ち悪いよ、このお化け!」
「キャー!」
私に直接言っているわけではない。あくまでもYタロウ君に言っているのだ。しかし、何だか心がひりひり痛む。子供と言うのは相も変わらず残酷な生き物だ。このテセウスの船か白川夜船かも知らぬかりそめの体にその刃が向くのは構わないが、同じ人間にその切っ先が向かぬことを願わずにはいられない。
だが、残酷さの逆もまた世界には存在する。様々な反応を受けながら街を練り歩いていくと、何人かの住人らしき人々は、我々を厚遇し、ご苦労様とか頑張ってねとか言ってお駄賃をくれた。しかも、それが全てお札だ。クエスの顔によるところもあるが、親切な人間もいる事が良くわかった。ただ、クエスが若干なのか大層なのかその親切心を利用している感があるのはかなり複雑な心境であるが。
「ごくろーさん! これで少しは知名度上がったやろ」
そう言って、柳ケ瀬のはずれにある喫茶店の中でお札を数えるクエス。3時間くらい歩いた後のアイスコーヒーとピザトーストはかなりの幸福感がある。
「2万2000円かあ。予想以上に受けが良かったなあ。ジャンヌ様とまく朗ちゃんには、人と金を寄せ付ける力があるんかもな」
それは否定できない。前世は聖女と讃えられ幾千万の部隊を率いたし、現世においても私のブログは高い閲覧数を誇る。まく朗も、フラガラックを手に入れる事に貢献しているし、この状況下におかれている時点で何かしらの運命力をもっているのは間違いない。ズレているが的を射ている、クエスとはなかなか不思議な生き物だ。ただ、善意の金を正しく使いそうに無い、その悪いことして儲けましたと言う仕草には下衆感が拭えないが。
「クエスさん~その、貯めたお金は何に使うんですか?」
まく朗が、良い質問を投げてくれた。実に聞きたい。
「ああ、これはな、柳ケ瀬の繁栄と教会の維持費に使うんや」
「あれ? 何だか歯切れが悪いですね~もしかして、ちびりそうなんですか?」
「あ、ああ、そーやで! ちょっとおトイレ行ってくるな!」
凄くわかりやすくて動揺したクエスは、お金を懐にしまうとそそくさと場を離れた。
「うわー、クエスさん絶対何か隠してますねージャンヌ様」
にこにこしながら、愉快そうにするまく朗の言葉に、私は頷いた。
「とりあえず、今はあまり詮索しすぎず暫く様子を見よう」
「泳がせるんですね~」
「修道女かそれとも、亡者か、見定める」
私は、ピザトーストを一切れ、口に向かわせた。
夕日色のチーズは、皿からびんよりと繋がったまま伸びて、柔らかき阿弥陀橋を作った。それは、運命の繋りが無数に絡み合う事に似ているような気がした。




