STEP1:ユーアー・ザ・チャンピョン
ガブリエルブレインのためクエスとともに700万円稼ぐことになったジャンヌ。ほぼ不安しかない。
「それにしても」
「何だ?」
「ジルさんなら700万円出してくれるかもしれませんね」
「確かに、今のあ奴はかなりの資産家だ。出資は容易かもしれない。だが……」
「何か問題があるんですか?」
「あの修道女は、我々を試すと言っていた。おそらく、金だけで解決しようとすればガブリエルブレインを渡すに相応しくないと考えるかもしれない」
「なるほど、お金以外にも目的があるわけですね~さすがジャンヌ様、スルどい推理です~まく朗のお尻はジーンとシビれちゃいた! いつか痔になりそうです!」
「痔になるメカニズムがわからんが、とにかく暫くは言う通りにしよう」面倒な話であるが。
「はい!」
≪岐阜メモリアルセンター≫
かつて「未来博」なる万博が開かれたこの場所は、現在は総合スポーツ施設に姿を変えた。今我々がいるのは、その一角にある「長良川競技場」の芝生になった観客席だ。ここで、今から何が始まるかといえば、ずばり、サッカーの試合である。
「いや~いい天気でよかったなあ」
3本のフランクフルトを持って、Tシャツにジーンズ姿のクエスが近づいてきた。金髪頭にサングラスが乗っかりまるで日本漫画のインチキ米国人のようである。リアルな米国人ぽくは無いのがポイントだ。横に座ってニコニコしているまく朗のシンプルな麻木色のワンピース姿もやや現実感がなく神秘的にすら感じるし、私の格好もどこのアニメの幼馴染みかのようなものなので、確実にこの固まりは周りにいる観客から浮いているだろう……と、思ったが、よく見れば顔を青く塗りつぶした若い男や安っぽいキリンの着ぐるみを着た女性、セーラー服おじさんらしき生き物もいるのでそこまで目立っていないかもしれない。
「ありがとうございます~FC岐阜の試合をタダで観れるなんてラッキーです」
クエスからフランクフルトを頂き貪る。胡椒の効いた塩味の中に香ばしさがやんわりと醸し出され、私の心に花火大会の屋台の味を思い出させた。
それは置いておくとして、「FC岐阜」とは、岐阜に拠点を置くサッカーリーグ所属チームである。創設は21世紀になってからとまだ若いチームで、戦力不足と・金銭面でかなり苦労してきたそうだが、最近は随分サポートされてワールドカップ経験者も入団するなど大分改善されたらしい。まく朗ら岐阜県民にとっては、この地元サッカーチームの存在は小さくないそうだが、中日ドラゴンズなるプロ野球チームや同じくサッカーチームで歴史も長い名古屋グランパスのある愛知県民の私にとってはやや縁遠い。そもそもスポーツにさほど興味があるわけでもないので尚更だ。
「あーただ見るだけはさすがに無いよ、ちゃーんとお仕事してもらうからな」
「何をするんですか~脱ぐのはいやなのですよ」
「ま、もう少し待っててな。もうすぐ物が来るに」
私たちがフランクフルトを食べ終えた頃に、その布切れは誰とも知らぬ老若男女達によりに運ばれてきた。
「いやーご苦労様です。やまだかさん」
クエスは、立ち上り中肉中背頭丸刈り銀縁眼鏡の壮年男性に頭を軽く下げる。
「やー、クエスちゃん。相変わらず胸が大きいね」
「へー、いきなりセクハラですか! そんなこと言うと岐阜裁判所に訴えちゃいますよー?」
「それは、堪忍な~チケットあげたし許してくんろ」
「あはは! じょーだんですよ冗談! 」
まく朗がこの人たちだれですか、と割り込み質問すると、クエスはどや顔で答えた。
「この人たちは≪柳ヶ瀬をささやかに応援する会≫の方々や。んで、このおっちゃんは会長の山高 行雄さん」
「どうも! 柳ヶ瀬を盛り上げるためにどーんとがんばっとる者ですわ! お嬢ちゃんたち、今日はよろしくお願いしますな」
そう言って、山高なる男は名刺を渡してきたので、とりあえず受け取る。文字の色が派手でカラフルなため、目に優しくない。早速「ささやか」と言うフレーズに大いなる疑問を抱いてしまった。
「んじゃ」クエスは右手の人差し指を立てて左右に揺らす。
「これからやることを説明するな」
「ああ」
「その横断幕には、柳ヶ瀬に来てください的な内容が書かれている。それを、この≪柳ヶ瀬をささやかに応援する会≫略して≪ささ柳≫の方々と一緒に持って、FC岐阜の応援をするんや。この作戦、名付けて「FC岐阜を応援しつつ柳ヶ瀬をアピールしよう作戦」っ!!」
名付けるも何もやる内容そのまま羅列しただけである。そして、長ったらしい。あと≪ささ柳≫と略したが普通に略したら≪柳ささ≫だろう。漫才師みたく指摘したい気持ちはあるががあるが、周りがガヤガヤしていて、私の声は聞き取りにくかろうから控える事にする。まく朗も疑う様子なく楽しそうですと乗り気なので、それに水を差すのも野暮であろうし。
こうして、私たちは「柳ヶ瀬にどんでん返し」と書かれた横断幕を≪ささ柳≫の面子達と持ちながらサッカーを応援することになった。いざとなると、みんなで持っているから横断幕は大して重くないし、大変な仕事ではない。
「オーオーオーオー」
競技場に雄叫びや歌がこだまする。互いのチームを勝たせるためのそれは戦歌を思い出させる。戦歌とは戦略だ。この国にかつて居た戦国武将達も、用いたと言う話だが、実際にこれは大変に役立つものだ。自軍の士気高揚は基本として、相手への挑発や牽制、攪乱にも使える。私も「ロワール渓谷の戦い」では、戦歌で寡兵をごまかし、ザルエットの大軍を撤退に追い込んだ事もあった。この応援には戦略的意思は薄いであろうが、しかし、この熱気は悪くない。
「ワーーーーーーー!」
豆粒みたいに小さく見えるFC岐阜の選手のヘディングシュートが、ゴールネットを揺らす。実に気持ちよく決まった。沸き立つ歓声。揺れる横断幕。スポーツ観戦などしたことがなかったが、なかなか楽しいではないか。
「やまだー!!」
「カッワグチー!!」
白熱した両戦いチーム1対1のまま後半に入り、残す時間もわずかとなる。応援の熱は下がることなく競技場は今日一番の盛り上がりを見せることになった。
「よっしゃ、PKや! 大チャンス!」
クエスがメガホンをポンポン叩き喜ぶ。なぜか知らないが、こやつは横断幕を持つ役割を放棄し、普通に応援している。人手がそんなに必要でもないので、どうと言う事もないが随分と気楽なものだ。
ゴール前には選手達が横並びになる。そして、その壁を突抜けるために、FC岐阜の選手がボールを前にして、様子をうかがっている。
「ヨネムラ~ヨネムラ~オーオーヨネムラー」
巻き起こるヨネムラコール。
それに、当の本人は応えられるだろうか。
「ワーーーーウウイィーー!!」
ヨネムラのシュートは、弧を描くように飛んで行き、ゴールに向かったが、残念ながら、キーパーに弾かれて、ゴールに入った。
「よっしゃーオウンゴールや!! もうけもん儲けもん!」
そのまま、試合は終了。応援の甲斐ありFC岐阜は勝利をおさめた。この結果をみるに、私が戦いに勝利を呼び込む聖女としての力がまだあるのかもしれないと言うことを錯覚させる。神の声も聞こえぬ私の錯覚にすぎないと思うが、しかし何か嬉しい。
試合が終わり、競技場の外で私たちは屯した。
茜色の西日が眩しく辺りを照らす。
「今日は、ありがとな!」
山高氏は、私たちに礼を言うと、クエスに封筒を渡した。
「また、よろしくね!」
「おーよ! クエスちゃんまた、色々頼むでよ! んじゃ」
そう言って、≪ささ柳≫のメンバーは横断幕を持って去っていった。
「それで、いくら入ってるんですか?」
まく朗が子猫みたいな目でくいと封筒を覗きこむと、クエスは遠慮なく、その中身を出した。それは、数枚のお札であった。
「ひーふー、ありゃ山高さん随分おまけしてくれたなあ」
「金額は?」私がボソリと聞く。
「36000円や。一人あたり12000円ってことやな」
……あれだけの仕事でそんなにもらえたのか。ほぼサッカー観戦しただけだぞ。
「うわー並みのバイトより高収入です~」
「ま、おまけもあるやろう。んじゃ、今日の仕事はこれで終わりや。喉乾いたし喫茶店でもいこか」
その後、クエスは行った先の飲食店で店代金の全額を今回の収入から払った。大した損失ではなかったが、こんなルーズな感じで本当に700万も稼げるのか、何だか先行き不安な感じでである。




