陽だまりの中で…
初投稿です。よろしくお願いします。
ぽかぽか ぽかぽか
お日様が気持ちいい
…リー……マリー…
どこからか私を呼ぶ声が聞こえる
心地よい低い響き
その声に意識がゆっくりと浮上する
私ったらうたた寝をしていたのね
重い瞼をゆっくりと持ち上げるとこちらを覗き込む夫と目が合った
近頃少し皺が目立ち始めたダークブラウンの瞳が心配そうに私を見る
ああ
この人はいつもそうなのだ
幼い頃はちょっとやんちゃだった私が無茶をしないか
年頃になってからはいろいろな誘惑に迷ってしまわないか
一回り年上のあなたには私は危なっかしく見えるのでしょうね
でも結婚してもう子供もいるのに可笑しいわ
あなたにそっくりの男の子を二人も育てているんですからね
元気があり余ったあの子達から目が離せない毎日
…母にあなたの小さい頃にそっくりと言われたのは内緒…
頭はぼんやりと起きているのだけれど身体はまだ夢の中にいるらしい
微睡みにたゆたいつつ夫の名を呼ぶ
寝ぼけている妻にあなたは少し困ったような笑顔をうかべる
あなたの心配そうな顔も困った顔も好き
怒った顔はちょっとだけ怖いけど
あなたが向けてくれる表情は
いつも私を幸せにしてくれる
愛しているわ あなた
日頃照れ臭くて言えない言葉がすんなりと口から零れ落ちる
そのつぶやきに彼は一瞬だけ目を見開き…
目尻の皺を深めながらその手を私の頭に乗せる
子供じゃないんだからと
私の母としての威厳を台無しにするから止めてと
何度言ってもきいてくれないあなたの困った癖
…気持ちよすぎて本当に困ってしまう
…ああ…また眠くなってきたわ…
もう少しだけ寝かせて欲しいというとその手が優しく私の髪をなでる
大きくて暖かなあなたの手
私をいつも幸せにしてくれる大好きな手
ふわふわとした心地よさに浸りながら
そのままゆっくりと眠りの中に溶け込んでいく
…私もだよ…マリー…
遠くから聞こえた声に夢の中で微笑む
ぽかぽか ぽかぽか
…ああ…いい気持ち…
◇◇◇
母がベランダのロッキングチェアに座っている。数年前亡くなった父が愛用していたその椅子は、今では母が日向ぼっこをする時のお気に入りだ。とても気持ちよさそうに寝ているのを起こすのは忍びないが、日も少し傾いてきたことだし、そろそろ室内に移動した方がいいだろう。
声をかけるとゆっくりと目を開け、私を見て穏やかに微笑みながら父の名を呼ぶ母。ここ最近どうやら私は彼女の夫になったらしい。彼女の記憶の中から息子である自分の存在が薄れていくことを寂しく思いつつも、その幸せそうな顔を見るとそれでもいいかと思ってしまう。
「愛しているわ、あなた」
母が溢れるように口にした言葉に少し驚いてしまう。周囲に惜しみなく愛情を伝えるくせに、なぜか父にだけは照れ屋な母。父への愛情は態度にこそだだ漏れではあったが、言葉として聞くのはこれが初めてではないだろうか。まあ、子供の私には見せない夫婦だけのやり取りがあったのかもしれないが…。さて、あの寡黙な父はどう答えていたのだろう。
結局どう答えればよいか思いつかず、父がよくしていたように母の白く柔らかな髪をゆっくりと撫でると、母は子供のように微笑み、もう少し寝かせてと小さく呟き、目を閉じた。
再び寝てしまった母にしょうがないなと思いつつ、もう少しだけとブランケットをかけ直した時、暖かな風が子供のような寝顔をした彼女の頬を撫でた。
読んでいただいありがとうございました。
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