薬と宝玉
目的の駅に着き、ショッピングモールへと向かって三人で歩いているところだ。冬休み中だけあって、空いていた電車とは違って混んでいる。
「あのー、兄さん?」
「どうした奏唄様」
「練習って、どこで?」
まさか、こんな人混みの中で魔法を使うわけではあるまい。……と、思いたい。でも、この人ならやりかねないからなぁ。
「はっはっは!
まさかこのような人々の中で使うわけがなかろう! 即刻、私の首が飛ぶわ」
ふぅ、意外と現実的な思考で助かった。
「じゃあ、どこで? アニメでよく見る決闘みたいに河川敷にでも行くんすか?」
「はっはっは!
それもいいけど、寒いから遠慮します。
あのだね、練習とは言っても簡単なことさ」
ウォシュレットは懐から出してきた銀色のケースから、オレンジ色の光を湛えたアメのような何かを取り出した。
「これは我が国に伝わる宝玉だ」
「ウォシュレット! どうしてあなたがそれを持っているの!?」
「ああ姫。これにはこんなわけが……」
あれは確か、私がこちらの世界に来る直前のことだった……かな?
「くそっ! 姫様が危険だ……!」
「ウォシュレットよ、大丈夫さ。アリスは一人の少年に助けられている」
「え? そうなんですか?」
「うんー。夫候補だね。あ、向こうに行くなら、彼にこれを渡してくれるかい? ヨロ〜」
「と、いうわけだ。奏唄様、これをどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
なぁ、なんでアリスの親父、こんなに適当なの?一応、国王様なんでしょ?
手のひらに転がるオレンジ色の宝玉。
アリスが興味津々にこちらを見て言う。
「それを薬みたいに飲み込んでみて」
「食べんの? それが正解なのか?」
ウォシュレットが深く頷いた。
「じゃあ、遠慮なく……」
ゴクリ。喉を宝玉が通過している感覚。
「奏唄様。少し力が湧いてきた気がしませんか? 今のあなたは、金髪のお兄さんと同じ技だって放てるはずです!」
「マジか!」
右腰の横で、両手を重ねて構える。目を瞑れば、広大な海の真ん中にポツンと佇む家がまぶたの内に浮かぶ。胸には『亀』の文字。
いける。今なら撃てるはず……!!
「…………はぁ、めぇ、ハァァァ!!
って、何にも出ねぇじゃねぇかよっ!!」
「ブッ! ごめんなさい奏唄様!」
「あははっ! 奏唄、全力だったね!」
「恥ずかしいわぁ。照れちゃうっ///」
照れねぇわ!もうやだウォシュレット!通報したろかなマジで。次はヨウカンでも教えてもらってこいや。
「さっきのは整腸剤。こっちが本物です」
手のひらにオレンジ色の宝玉が転がる。
すると、宝玉にヒビが入り、謎の文字列が環となって宝玉の周りをまわる。
「やはり貴方は……」
「……?」
「いや、なんでもない。その文字列が魔法の源となるものだ。食べてください」
「は? 文字列を食べるの?」
「そうですよ? あ、手のひらの破片は食べちゃダメですよ? ガラスですから」
いやいや、それはわかってるけどもね?
「あむ」
「「あ、食べた」」
あんたが食べろっつったんだろうが!
「んっ……!?」
突然、身体がドクリと大きく脈打った。