手遅れ
その華奢な体に似合わぬ大斧を力任せに振り回し、マル・ゼスティアは王を叩くように斬ってから少しの時間が経過した。
「ん…? そういえば、俺はなんでこのおっさんを殺したんだっけ?」
辺りを見渡しても、あるのはガレキと兵士の死体。彼の問いに答える者は誰ひとりとしていない。
「死体ばっかりだぁ。弱っちいやつら」
彼の問いに答えるはずだった男の死体を担ぎ上げ、その部屋を後にした。
やっとの思いで地上へ戻る。どこか建物の中に出たようだが、どちらを向いてもガレキの山。どれだけ多くの兵士の命が奪われてしまったのかは想像もしたくない。
ミロが何も言わずに立ち止まる。ぼくの口は「どうしたの?」と発しようとしたところで止まった。ぼくと同じく、彼女の目が輝いているのに気がついたソノが叫ぶ。
「ミナハ!」
「はい、マスター」
指示されたミナハがミロの首元に小刀を突きつけると、その童女は小さく微笑んで言った。
「やっぱり、ミロは無邪気でいけないわね」
ミロの顔、ミロの声に違いはない。でも、どこか大人びているような気がした。
「あなたは何者です。ボートの上ではお世話になりましたが、ずっと不審に思っていました」
「仕方ないわね。ちゃんと話すからこの刃物をしまってくれないかしら?」
ソノが許可すると、ミナハは刀を下ろして一歩下がる。
「では話してもらおうか。貴様は何者だ?」
「私は〝ミロ〟よ」
〝ミロ〟は、今表に出ている存在の名らしい。
魔法はその場で起こる未来、起こった過去を見ることができるというもの。
「簡単に言えば二重人格ということになるのかしら? あの子は魔法を使えないから、必要なときに私が手を貸す。それだけの関係よ」
じゃあね、と言ってミロは目を閉じてしまった。




