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ぼくと彼女の変わった日常。  作者: ねむ。
変わってしまった日常。
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意志と声

勝てなかった。自分で魔力を生成することのできない、借り物の力しか持たない男に負けた。


白髪の男は夜枷の刀を抜いて笑う。


「刃こぼれしてるし、使い物にならないな」

「返せ……!」


身体が動かない。魔力を抜かれたことによる脱力感が夜枷を襲う。


油断した自分が愚かで仕方がない。まさか、本当にアリスの兄で、一時は奏唄たちと行動を共にしたクウヤが財軍複合国ゼスト側の人間だったとは信じることができなかった。


ロムには奏唄たちと合流してことの真相を伝えろと言ってある。問題は自分のこと……それもそうだが、クウヤについてだ。


得た情報が真実ならば、クウヤは奏唄と同じく地球出身の人間ということになる。つまりアリスとクウヤは血が繋がっていない、いわゆる義兄妹……なのか?


「あれだけ信頼してた、憧れの存在だった兄が、敵側の人間だと知ったら妹さんは悲しむだろうな」

「……」


彼の目に光はなかった。連れていた仲間もいつの間にか消えている。逃がしたはずはないが、この場にはいない。


「自分でも何がしたいのかわからないんだ。他人の魔力を奪い、命を奪う。俺はアリスの兄で春都の王子、それでよかったはずなのに、意志に反して身体は動く。俺は何者なんだろうな」

「お前は……どちら側の存在なんだよ」


夜枷は残された力を振り絞って問うた。

クウヤの触手は溶けるように消え、彼は力無く天を仰ぐ。


「俺はゼストが行った人体実験の被験者のひとり。欲しくもない触手を植え付けられた末に、「失敗作」と捨てられた、元人間だ」


ゼストが行う人体実験は極めて卑劣なものだと聞いたことがある。多数の視認を出し、クウヤのような失敗作を産み、成功した被験者は感情を消されて殺しのための兵器にされる。そんな噂だ。


「その耳と尻尾は?」

「アリスの魔力を吸収したときに変化した」


突然、クウヤが頭を抱えて叫び声を上げる。


「やめろっ! 嫌だ、嫌だ!」

「おい、どうした……?」


再び現れた触手が暴れて地を叩く。これは明らかに意図的なものではなく、暴走だ。力を制御できていない。


「誰なんだよ! 俺の身体を勝手に……!」


触手が静止、全てが同じ方を向く。

狙われたのは夜枷ではなかった。


自らの触手に喰われ、笑いながら血を流すクウヤの姿がそこにあった。

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