雷騎士の救
カカハ・フラネオが遺した本の一件。あれが表面上解決した頃から彼女は彼を気にかけていた。
──やはり彼は人間の子だった。
魔が香る理由は定かではないが、彼と春都の姫はかなり親しい関係にあるようだ。
「ソノ様、もうやめましょうよ」
「む。なぜやめねばならないのだ?」
「こんなの、私たちただのストーカーです!」
ソノたちは雪道を行く二人を少し離れたところからじっと観察していた。ストーカーと言われるのは心外だったが、対面したことがない以上「こんにちは〜」っと会いに行くわけにもいかない。なによりそういうのは苦手だ。昔から。
「ん……? ソノ様、少しまずいかもしれません」
「何か見えたか?」
「春都の姫が……倒れました……」
「アリスっ! なぁ、目を覚ましてくれよ!」
知り合いはみんな異世界へと戻ってしまっている。ぼくがなんとかするしかないのだが、なんとかする方法を知らない。知識がない。
「どうしたら……」
ピシャっという音と共に現れた人影。
光を纏う馬に跨り、冬風に金髪を揺らす女性の姿。
「君が解決できる問題ではない」
「誰…ですか……?」
「私はソノ。自己紹介は後でゆっくりしよう。乗れ」
畳の匂いがした。懐かしいような、落ち着く匂い。
「目を覚ましたか。おはよう」
「おはようございます」
布団から体を起こす。
「ここは? と聞かれる前に説明しておこう。ここは私の家……というか、一応城ということになっている建物だ。もちろん地球ではなく異世界のとある場所だ」
「雷騎士さん、ですよね?」
「アリス! よかった、大丈夫?」
「大丈夫。心配かけてごめんね」
「リア充め」
「「え?」」
「え、あ……なっ、なんでもない!」
アリスが目を覚ましてよかった。ソノさんには感謝だ。いや、感謝しなければならないが、まだ信用できない。最近よく耳にするあの国からの刺客かもしれない。
「ミナハ! お茶を持ってきてくれ!」
「はい、かしこまりました」
部屋の隅で座っていた少女がとたとたと部屋を出て行った。
「うむ、私の正体が気になる頃か。先に春都の姫様が言ったように私は雷騎士と呼ばれることもある存在。フランという国の王…だった」
この人もまた、王様。
なんなんだろう。どうしてぼくの周りにはこうも上級の方々が集まってくるのだろうか。
「とは言っても、この国はとうに廃れているのだがな」
「どういう意味です?」
「そのままの意味さ。ある日突然襲撃を受け、国の民は殺され、さらわれ、美しい街並みも全てガレキの山にされてしまった。私たちが他の国へと行っている最中の事件だった。帰ってきたらこの家だけがポツリと残されていた」
嫌な予感がする。多数の国ならば確実に殺し、不在の王の首を落とすために待ち伏せるか様々な仕掛けを施すのが普通だと思う。
「市民がさらわれたと、なぜわかったんですか?」
「記されていたんだ。この国の民は我らの力となり、いずれ其方の首を落とす……」
市民をさらうような真似をする国。
「ゼストの王より、とな」




