楽観の剣
魔力の通った度重なる斬撃を、スータは軽々と流してにやりと笑ってみせる。
この男はかなりの手練れだ。
「なかなかやるじゃないか」
「いやいや、あなたこそ」
ウォシュレットは少しの違和感を感じていた。
先から全く手応えを感じない。綺麗に流されているようなきがする。いや、流されている。
もちろん、こちらも全力というわけではない。全力ではないが並の戦士なら軽く倒せるぐらいの力は出している。
力強くスータの剣を弾く。
お互いが後退して1度呼吸を落ち着ける。
とは言っても、息が切れているのは私だけだ。
「本気で来い。真剣な勝負なんだ」
「いやー、リーダーに止められてるんですよね」
「そんなものは関係ない」
「ふっ、あなた、おもしろいです。わかりました! 本気とはいかなくても少し力を入れてみます!」
スータの姿が……消えた。
視界を埋める人影。
揺れる金色の髪。
頬をゆっくりと撫でる剣。
「どーです? ちょっと力を入れてみました」
かなりの硬さを誇る竜鱗が浮き出た頬が裂けた。
「貴様……!」
「まあまあ、そう怒らずに」
「怒ってなどいない」
「……もう、やめます?」
怒り。そんな気持ちはない。今心を占めているのは恐れ、絶望、そして……死の予感。
だが、姫たちをここから出すため。
「それは一番無いな」
「さすが騎士団長」
凄まじい威力を秘めた一撃を受ける。
ぴき…ぴき…と刃に亀裂が走り……
「終わりです。さようなら」
目を大きく見開き、こちらを見下ろしてくる。
「さようなら……かな?」
折れかけた剣で足掻くほど弱者ではない。
刃を握り砕く。手の内では粉々になってしまった愛剣がちゃりちゃりと音を立てている。
無駄にはしない。
剣を振り上げた少しの隙を狙って刃の破片をスータの顔面に向かって投げつける。見開いた目の中に破片が入り込んで傷をつけてゆく。顔にも粗めの破片が多量の切り傷をつけている。
「あ…あぁ……! 痛い……いっ……あっ……」
右目から涙のように血が流れている。両目にダメージを与えることはできなかったようだ。
「くっそ……! これ以上やるとリーダーに絞られる…」
次に会ったときは必ず殺します。
ふっと力が抜けた。
「夜枷……」
「ああ、わけがわからない」
助けに行こうとしていた本人たちが。
魔法で飛ばされたはずの彼、彼女らが。
「あぁ奏唄様、おはようございます」
「奏唄おはよ〜」
どうしてリビングに転がっているんだ?




