殺;誘拐
簡単な身支度を済ませ、小さなバッグを背負う。スマホと財布があるのを確認したとき、壁に持たれてスマホをいじっていた夜枷に声をかけられた。
「奏唄」
「んー?」
「見ろ」
夜枷が投げてきたスマホを見る。
表示されているのはニュース記事。つらつらと書かれた文字列の中に、よく見覚えのある漢字四文字が並んでいた。
地元の高校に通う【琴結 知砂】さんが路上に……
「なんで……さっきまでここに、ここで話してた!」
「話してたからだ。おそらく窓から監視されていたんだろう、ゼストの手の者にな。あいつは俺たちの関係者だと判断したあいつらはちーを殺した」
……血まみれで倒れているのを付近の住民が見つけ、通報しました。
「知砂が……どうして……!!」
「……っていうのは嘘だ」
「へ?」
「やつらは〝殺さない〟。殺すなら暗示魔法をかけて奴隷にするか売りさばいて金にする。そういう集団だ。路上の死体もおそらくゼストが作った偽物、ダミーだ」
ちーは俺と同じ道を歩いてる。
俺は〝殺し屋〟に育成するが故に存在ごと消されたが、ちーは違う。ちーは奴隷、売られるでもなく、俺らを呼ぶためのエサだ。
夜枷はそう呟いて壁に立てかけてあった鞘に入った状態の刀を手に取った。魔法で刀なんていくらでも創造できるはずなのに、大切に鞘に入れて持ち歩いているのはなぜだろう。
それ以前に、警察に見つかれば即捕まるんだけど。
身支度を済ませ、勢いよく立ち上がる。
「ゼストに行こう!」
「行けねーよ」
「またまたそんな〜行けないわけないでしょ~?」
「行けないんだよ。ゼストの場所を俺は知らない」
「夜枷、ゼストの殺し屋なんでしょ?」
「殺しては次の指示を受け、また殺しては次の指示を受け……。誘拐してきた、道具みたいな俺たちをゼスト国内に入れてくれるほど奴らは優しくない」
〜ゼスト地下牢〜
「身分証明……あ、これならあります」
ウォシュレットが懐から取り出したのは免許証。
ウォシュレットのクソ真面目な写真が印刷された竜乗免許。
「あ、あんまり見ないでくだされ! 免許の写真はあまりジロジロ見るものではないですぞ!」
「ウォシュレットさん……」
「ウォシュレットだ。春都で騎士団長をやっている」
「騎士団長……!」
青年は背から剣を抜いて軽く振る。
スパンと紙を切るように鉄柵が切れ壊れた。
「おっと」
青年が投げたのはウォシュレットの剣。
「僕、スータ・ゼスティアといいます。この国で八皇剣の一人やらせてもらってて、剣の腕には自信があるんです。僕に勝てたらここから出してあげますよ」
牢の魔法により、抑えられていたからだろうか。
竜と化してもおかしくない程の魔力が身体の底から湧き上がってくる。
頬がパキパキと割れる。
「ほう、いいだろう。必ず勝つ」
二本の剣が交錯した。




