テレポート
目が覚めると、見知った風景が映った。
ぶおーっと低い声を出しながら温風を吐き出すエアコン。
いつもは隣から小さな息遣いが聞こえるはずなのだが、今日は無音だ。
いや、待て。
「ここは!?」
「…っとびっくりした。目覚めたか」
「おぉ、夜枷。おはよう」
「おはよう」
部屋の中には夜枷の姿しか見えない。
「ぼくの家……だよね?」
「織宮家だ。おじゃましてます」
夜枷の話によると。
結界装置の形を真似た爆弾が起爆し、ぼくたちはそれぞれ吹き飛ばされた。こういう簡単な言い方をできるのは、あの爆弾が破壊目的のものではなく〝爆発に巻き込まれた生命体をランダムに転送する〟魔法を広範囲に拡散するためのものだったからだ。
夜枷は巨大な刃で壁を作り、近くにいたぼくを引き寄せて刃の盾の中に引き入れた。
結界も、そのときに破壊された。
「助かったのは俺ら二人だ」
「他のみんなは!? アリスは!?」
「さぁな。どっか異世界に飛ばされてんだろ。だがあの爆弾はそれほど高性能じゃねぇから、飛ばせても決められた地点だな」
「嫌な予感が……」
「嫌な予感は当たるぞ。あの爆弾の所有者はあの富豪。おそらくみんなはゼストに飛んでる」
財軍複合国。この国とは一波乱ありそうだ。
「奏唄ー、ご飯にしましょー」
階段の下から聞こえた母さんの声に、ぼくはほっとした。涙はこらえた。そこは男だから耐えるよ。
「行こう、夜枷」
ぼくは扉を開けて振り返る。
「何泣いてんだよ。と、夜枷に言われて恥ずかしい思いをするはまた別の話……」
「しばいたろか」
「勝手に出てきてよかったの?」
「ああ、大丈夫だろ。奏唄なら許してくれるさ」
クウヤはフウカと二人で荒野を歩いていた。もちろん日本ではないし、地球でもない。異世界の中のとある地だ。
「それに、いつまでもあいつらを放置しとくわけにもいかないだろ?」
「まあ、そうね。久々に進むのね!」
「ああ。次の地点へ……」
牢の中は非常に居心地が悪い。
ジメジメと湿った空気。光源は牢の外、壁に掛けられた松明だけ。
「あー、やだー!」
「アリス様、落ち着いてくだされ」
「なんとかしてよ! 唯一の男でしょ!」
「アリス嬢。私を忘れてもらっては……」
「ロム、いいから」
「はい、すいませんでした……」
「ウォシュレット!!!」
せめて魔法が使えたら。こんなところすぐに脱出するのに。
どうやらこの牢には魔法を無効化する魔法がかけられているようだ。発動すらできない。
「力で破壊するしかないのよ」
「まあまあ、大人しく待ちましょう」
「もう! ジメジメ気持ち悪い! トイレ行きたい!」
奏唄と夜枷、どこ行ったんだろ……。
コトトは夢に逃げたのかな……。
みんな、無事でいて。




