彼の間違い ぼくの呼声
「話ってなんだよ。お前は俺の敵だ。長くは付き合わない」
「まあまあ、そう言わずに。ロムちゃんから話は聞いたよ」
目を見開く夜枷。次にロムを睨みつけた。
「ロム、お前ってやつは……」
「すいませんすいませんすいませんっ!!」
夜枷ははぁぁっと息を吐いた。要するにため息。呆れたと言った風に頭を振って見せた。
「で、話聞いたんならお前を殺さないといけない理由もわかっただろう?」
「いや、わかんない」
「なんでやねん……じゃなくてだ! お前には理解力がないのか? そうなのか?」
「理解力って……。夜枷の考え、歪みすぎだよ」
「なんだと?」
ぼくははぁぁっと息を吐いた。次に呆れたと言った風に頭を振って見せる。要するに夜枷の真似である。
「夜枷。君は殺す相手を間違えている」
ぼくを殺したとして、夜枷は助かるのか?
夜枷はロムを助けるためにぼくを殺そうとした。ロムは助かるかもしれないが、夜枷は助からない可能性もある。
「一番倒さないといけないのは、あの富豪だよ」
「なっ……! お前、正気か?」
「正気か? って、一番簡単な方法じゃない?」
「そんな考え誰でも思いつく。俺だって試した。だが、俺はあの男に勝てなかった。あの男は基本護身用の小銃を使うが、本気になると……」
「正体を現す、ってねぇ」
「奏唄、伏せろ!」
「うわっ!」
さっきまでぼくの頭があった位置を小さな刃が通過する。夜枷の手から放たれたそれは、突然の侵入者の拳を掠めて夢の彼方に消えた。
「富豪……なのか……?」
「ああ間違いない。あれが本来の姿だ」
富豪の声で話す何か。それは、魔力に呑まれた哀れな人間の成れの果て。自我を持った肉の塊だ。
「いやぁ夜枷君、君はやはりもっと早く殺すべきだった。どうせ君は私には勝てないんだし」
夜枷は強い。おそらく氷の青年の力がなかったらぼくはあっさり負けていた。そんな夜枷も勝てない相手とは、どれほどの力を持っているのだろうか。
「奏唄。油断は禁物だ。ロム、下がってろ」
「おーけー。アリス、コトト、下がってて!」
ズズズ…ズズズ……。富豪は肥大化したボディを重そうに引きずりながら近づいてくる。
「夜枷…ハ…勝テナイ…シ。君…ハ…魔法…使エナイ…」
ズズズ…ズズズ……。
「奏唄。俺はあいつに勝てなかった。でも、今回はお前がいる。奏唄、俺はお前を───」
───……信じてるぞ。
「死ネェ」
夜枷は富豪の肥大した拳を受け止めようと刀を喚ぶが……間に合わない。振り上げられた拳が凄まじいスピードで降ってくる。
『変わろうか?』
いい。自分でやりたいんだ。
『そっか』
ひとつ、お願いがあるんだ。
『言ってみて』
ぼくは攻撃をする。君は護って。
『名前を呼んで。そうすればぼくの魔法は外に届く』
君の名前は……?
『ぼくの名前は、レミア』
「やっぱり俺は、こいつに勝てないのか……!」
拳の落下地点で夜枷は膝をついてうなだれる。過去にもこのようなことがあったのだろう。勝てない相手だとわかっているのだろう。
でも、今はぼくがいる。
奴の、富豪の拳を止めろ。
「レミアァァァァ!!」




