財軍複合国
視界がふと入れ替わる。
少し離れたところから銃声と弾丸が壁を貫く音がした。
「コトト、夢!」
「……任せて」
「奏唄、大丈夫!?」
「大丈夫……だけど、横腹の治療をお願い」
「任せて!」
アリスはぼくの服を強引に脱がせて治療を始める。
辺りを見渡す。ここは工場ではなく、夢の中だ。
「で、君はいったい何者なの?」
白仮面を右手に持ったままの美少女に尋ねる。白仮面を持っているということは、この美少女=ロムで間違いない。
「私はロムです。とある良家からあの男に誘拐されました」
「あの富豪が、君を誘拐したの?」
「いいえ。あの男を含む組織です」
奴らはふと現れた。
初めは富豪が集まったセレブ集団だった。ところが、富豪たちは自分たちの遊びで殺し屋を雇い、各地で殺人を繰り返させた。
それに飽きた彼らは、有り余る金を使って軍事力を高めた。異世界各地からメンバーを集めて。
「そうして発足したのが財軍複合国『ゼスト』」
「ゼスト……」
「はい。ゼストは会員制の国ですが……まあ、詳しいことはさておき、私と夜枷さんはあの男に雇われた殺し屋にすぎません。いや、安定した生活を送るために人殺しを強要されたのです」
誘拐され、人殺しを強要された?
「私は名もなき土地から、夜枷さんはこの国から拐われました。私は戦闘に向きませんし、女です。成果をあげられず、殺されそうになった私を救うために夜枷さんは言いました。『俺が必ず殺す。だから少し待て』と」
だから夜枷はぼくを殺そうと必死に……
「ロムちゃん。夜枷の奴を呼べる?」
「え……可能ですけど……」
「呼んでくれないかな?」
「でも……」
「早く!」
「……はいっ!」
空間に消える半透明の手。
再び現れた手には夜枷が握られていた。
「奏唄。治療終わったよ」
「ありがとうアリス」
「いいよ。それはそうと、夜枷凍りついてるよ? 火はないし、あったとしても魔法だから溶けないと思う……」
溶けない氷、というのはわかる。これはぼく自身が生み出した魔法だから、そんな気はしていた。
だが、解けないわけではない。
「解」
ピシピシと氷がひび割れ、散った。
「よっ、夜枷さん!!」
ロムは夜枷に駆け寄り、とんとんと肩を揺すると同時に夜枷の傷を治癒する。
「んっ……痛ってぇ……」
「よぉ夜枷。目ぇ覚めた?」
「てめぇ……!」
「落ち着け落ち着け。話があるんだ」
「話……?」




