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ぼくと彼女の変わった日常。  作者: ねむ。
変わってしまった日常。
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富豪。雇われ剣士

あれから数分。ただひたすら同じことが繰り返されていた。

夜枷は次々に刀を構えて戦うがぼくはひたすらに弾く。そして刀が折れるとまた刀を構えて攻撃する。何一つとして進展のない戦いが繰り広げられていた。


「もう、やめようよ」

「やめねぇよ!」


攻撃はエスカレートする。夜枷の息も上がる。が、攻撃をやめようとはしない。その心理はぼくには理解できないが、目の前に立ちはだかる敵に背を向けたくないのだろう。


「どうすれば終わるんだ!」

「俺かお前が倒れるまでだ!」


夜枷が倒れるか、ぼくが倒れるか。


ぼくだって負けるわけにはいかない。


「ごめん」


大きく剣を振る。それを防ごうと構えた刀は呆気なく折れ、夜枷が防ぎ損ねたぼくの剣は夜枷の横腹を捉えた。


ザクリというあまり感じたくない感覚が伝わる。

直後、夜枷の傷口はパキパキと凍り付き、やがてそれは全身に広がる。


早くこうすればよかったのだ。

そうすれば、夜枷の自信を損なわずこともなかっただろうし、斬ったとしても傷口は凍り付いて止血される。アリスは治癒魔法を使えたはずだし、全てが丸く収まる。


ぼくは、他人を傷つけることを躊躇していた。

戦わなければ自分がやられるとわかっている。そういう世界に来てしまったのに、他人を傷つけることは慣れそうにない。



「いやー、ご苦労ご苦労」



工場の中に、初めて聞く声が響いた。

入り口を見る。陽光を背に受けて浮かびあがる一つのシルエット。


「夜枷……いや、〝ゴミ〟を消してくれてありがとうね。君たちにはものすごーく感謝……ってあれ? 君一人かい? はっはっは、愉快だ!」


なんじゃこのおっさん。


「あのー、どちら様で?」

「あぁ、私かい? 私はこのゴミの雇い主。とある世界の小さな町に住まう富豪だよ」


はっはっはと笑う富豪。


「君を殺すとね、多額の賞金が出るんだよ。世の富豪はみんな君の首を狙っているんだけど、私は自分で人を殺して手を汚すわけにはいかないからね。こいつら雇ったんだ」


富豪は内ポケットから小銃を取り出した。


「役立たずだったから、結局こうなるんだけどね」


何の躊躇いもなく、富豪は弾丸を放つ。


「はっは! 私の勝ちだ! 私は勝ち組だ!」


弾丸は見事にぼくの頭を狙って飛来する。

弾丸がスローに見えるのは、死の間際に立たされたことで自己防衛機能が過剰反応を起こしたからだろうか。


だけど、ぼくにはその遅い弾丸を避ける余裕がない。


───死ぬのか。ぼくはこんなやつに……


諦めて、目を閉じかけたそのとき。


『大丈夫です。主は貴方を護ることを命じました』


半透明の何かがぼくを包み込んだ。

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