返還
「刀を一本折った程度でいい気になるな」
夜枷は両腕を胸の前あたりで交差させ、て何かを掴み、そのまま引き抜くような動作。何もない空間から出現したのは二本の刀だった。
「俺の武器庫は尽きない」
「その力は……うっ」
まずい。意識が途切れる。
『ぼく』は前世のぼくの思念にすぎない。今まではどこでなにをしていたのかすらわからない。覚えているのは、眠っていたところをかなり古い魔法によって起こされ、今世のぼくのなかにいたところからだ。
思念の『ぼく』はかなり弱い。物理的な強弱ではなく、今世のぼくの身体を借りても意識を保っていられない。
「ごめん、ぼく……」
手の中の冷たさと重さにぼくは目覚めた。
「冷たっ! え、なにこれ……」
手の中にあったのは、燃えるように輝く剣。冬の寒さとは全く別物の冷気を放つ、重みのある剣だった。
「あいつ……」
「なにをぶつぶつ言っている。まだ勝敗はついていない」
夜枷の手には二本の刀。あれからどれだけの時間が経過したかは定かではないが、先ほどまで使っていた刀は折れて地面に刺さっていた。
「まさかまともな魔法が使えるとは、これまた誤算だった」
「まともな魔法?」
「ああ。お前はその剣をその手で創っただろ?」
ぼくが創ったんじゃない。創ったのはあの男だ。
そんな心の声が夜枷に届くはずもなく。
「休憩は終わりだ!」
二本の刀から繰り出される攻撃を避け、弾く。パキン、パキンと音がするが氷の剣はヒビはおろか欠けてすらいない。欠けているのは、夜枷の刀のほうだ。
バキン!
「っ!!」
またしても、夜枷の刀が折れた。
「なぜだ! なぜ折れる!?」
「知らんがな」
「夜枷さん、苦戦してますね〜」
ロムは呟く。仮面のせいで表情はわからないが、おそらくにやりと笑っているのだろうとアリスは予想する。
「さてさてお姫様方、どうしますか〜?」
「……解放して」
「そうよ! 早く解きなさい!」
このまま捕まっているわけにはいかないのよ。奏唄を助けてあげなきゃ。
「それはイヤで〜す」
そう簡単にはいかないか。
アリスはんんっと咳払いをし、こいつと出会って気がついたことをぶつけてみる。
「あなた、女よね?」
ロムの肩がびくりと震えた。
「え、えと……ちっ、違います!」
「口調」
「あわわわ!」
「……もう、正直に話しなさいよ」
「うぅ……」
180cm程度、長身の男性はゆっくりと仮面を外す。途端に身長はみるみる縮み、150cmくらいで落ち着いた。
ふわりと漂う甘い香り。
伸びた髪は金色に輝き、ゆるく巻かれている。
「こ、こんにちは」
「……かわいい」
「おぉ……想定外よ……」
そこに立っていたのは、女性ではなく少女。
それもゆるふわ系のかわいいお嬢様だった。




