遭遇
街の中心、ぽっかりと空いた区画。
街の住民からもあまり馴染みのない工場地帯にぼくとアリスは到着した。自転車は入り口に放置して工場地帯に踏み込んだわけだが、まったくありがたくないことに広い区画に尋常じゃない数の工場が密集している(と、聞いたことがある)ので、2人で全てを見てまわるのは無理がある。
「確か、この辺りにでかい廃工場が」
「全部大きいわよ……」
比較的大きな工場が多いエリアに焦点を当て、結界の発生源を探すことにした……のだが、それだけでもかなり広い。
「あーもーやだー! 歩き疲れたー! 奏唄、おんぶ!」
「やだよ! さっきまで後ろにお前乗っけて自転車こいでたんだよ!? ちょっと歩いたお前とは疲れの溜まり具合が違う。逆におんぶしてくださいお願いします」
「いやよ、気持ち悪い」
「え。え……? 今のはおかしくない?」
アリスはフレアスカートを翻し、ぼくを放置して歩き始める。小さく、小刻みに揺れる肩を見ると、笑っているようだ。このS女め。
───。
ふと、アリスの動きが止まる。
ぼくには小さな耳鳴りのような意味のない音が聞こえたが、アリスには違うものが聞こえたようだ。
「あっ、コトトが……呼んでる!」
「え? コトトは別行動だよね? こんなところにいるわけがないよ。可能性としてはあるかもだけど……」
その可能性というのも、限りなく低い。
「こっち!」
「ちょっ、アリス!?」
疲れたなんて言いつつ、走り出すアリス。コトトからの呼びかけは、どういう内容だったのだろうか。
小さな疑問を残しつつ、尋常じゃないスピードのアリスを視界から逃すまいとぼくは駆け出した。
「コトト!! どこにいるの、返事して!!」
アリスが入って行ったのは、先ほどの場所からそう遠くない、そこそこ大きい工場。もしかしたら、さっきのぼくたちの会話が聞こえるかもしれないぐらいの場所だ。
「アリス……ここ……」
「コトト! 大丈……」
「はいはい、こんにちはで〜す」
「誰だ!!」
「はぁい、私は〝アヤシイ〟者で〜す」
現れた白仮面の男。この薄闇の中にぼんやり浮かぶ白仮面だけで十分な不気味さがあった。
「はいはい、ロム、もういいから」
奥の闇からゆっくりと現れたのは黒髪の少年。ちょうど、ぼくと同い年ぐらいか。少年の手には少しの光を受けて輝く刀があった。
「何者だよ、お前たち」
「俺はヨカセ。夜に枷と書いて夜枷だ」
夜枷はその手に握った刀を持ち直して鋒をこちらに向けてにやりと笑う。
「簡単に言えば、お前らの敵ってことになるな」
ドクン、と、ぼくの身体は密かに脈打った。




