神隠
「あの白人ピエロ、ばかなことしてないだろうな……」
少年は建物の入り口から射す陽光を浴びて目を細める。白人ピエロことロムは、俺とともに結界装置を護るべく派遣された人なわけだが、この建物に結果装置を運び込んで数分経った頃に「遊んできま〜す」っと、スキップでこの場から消えた。以来連絡のひとつもない。
「ただいまで〜す」
おっと、噂をすれば……
「誰だ、それ」
ロムの肩に担がれた紫髪の少女。見覚えがあるようなないような……まあ、会ったことはない。こいつも同様のはずだ。そしてこの世界の時は止まっているが故、一般市民の可能性もない。そうなると〝カナタ・オリミヤ〟の仲間か。だが少なくともあいつらがこの世界に入ったときにはいなかった。
「侵入者で〜す。いや、闖入者で〜す。この子、眠界のコトト姫だと思いますね、はい。夢の中に閉じ込められたから間違いないかと思いま〜す」
眠界の姫か。それは見たことがあるだろう。
夢に閉じ込められたら出られない。夢が恐れられる最大の理由だが、この男の辞書に出られないという言葉はない。
「隠したのか」
「Yes!! 夢という空間の中に神手を召喚しました。それはそうと、ヨカセさん? 今まで何してたんですか?」
少年…ヨカセはにやりと笑う。
「余裕で遊んでた」
「あなたという人は……」
ロムは手のひらを上に向け、やれやれといった様子で首を縮めて見せた。
「結界装置を護れとしか言われてないだろう」
「そうですがねぇ、敵は倒さねばなりませんよ〜」
「あいつらを殺したところで、プラスにはならない」
「おっとぉ〜、それはNGワードで〜す」
「っと。監視カメラはないようだが、気を配ることに損はないか。すまない」
ヨカセとロムは、遥か彼方からこちらを見ているであろう組織を睨みつけた。
「確か、この辺りにでかい廃工場が」
「いやいや。全部大きいわよ……」
「「……っ!」」
近い位置から2つの足音が聞こえる。
おそらく〝カナタ・オリミヤ〟。知らぬうちにこんなに近くまで来ていたのか。
完全な、誤算だ。
───ここにいる……。気付いてアリス……
静かに目を覚ましたコトトはごく小さく呟いた。




