白仮面の男
「うっ……夢が……」
一人で捜索にあたっていたコトトは胸を押さえてその場にしゃがみこむ。
夢の一つに異変が起きている。それは、言うまでもなく例の本を封じたパンドラの箱と化した夢。そこで起きている事態は考えたくもないが、外にある私の身体にまで干渉してくるとはただ事ではない。
「お嬢さ〜ん? 大丈夫ですかぁ〜?」
隣の住宅の屋根の上に人影を捉えた。夕陽のせいでシルエットしか見えないが、声の質からして男。放たれるピリピリとした空気は、男が手練れであることを物語っている。
「誰……?」
「はぁい、私は〝アヤシイ者〟で〜す」
ひひっ、と気持ちの悪い笑い声を漏らす。屋根から飛び降り、鳥の羽が落ちるようにふわりと着地して見せた男の顔には真っ白の仮面があった。
「ふ〜ん? この舞台に現れる者たちの一覧に君の顔は無かったけど……まあいいや、死んでもらお」
この男は危険だ。
「……夢誘い」
構成。私にとって有利になるように夢を生む。
今回のテーマは古の樹海。辺り一面はただただ大樹の群れが広がるばかりの特徴の無い夢だ。
「驚いたな……お嬢さん、眠界の民だったり?」
「……眠界の者以外に、こんなことはできない」
厄介なことになりそうだ。コトトはそう予感した。
「三つ目は工場地帯だよ。街の中心にあるんだ」
「確かに工場地帯なら隠れるにももってこいだし、工場は入り口が広いから結界装置も運び込める……! さすが奏唄! たまには使えるわね!」
「たまにはってなんやねん」
今のはちょっとイラッ☆っとしたぞー?
「まあ、工場地帯ぐらいしか思い浮かばないし、ぼくが結界を仕掛ける側の立場だったら街の中央部から発生させたいなー。と、思ってさ」
誰だってそう思うはずだよ。と、付け加えておく。
そんなことより、展望スペースを出たのはぼくとアリス、それにコトトの三人だった。クウヤとウォシュレットは何をしているのだろうか。なにか用があるのだろうか。
「まあ、とりあえず行くしかないか」
「ん? どうしたの?」
「なにもないよ。よーし! とばすぞー!」
ぼくはアリスのぬくもりを感じつつ、夕陽に照らされた世界を走り抜ける。




