可能性
そこから数時間後……だろうか。
ぼくが目を覚ましたのは、前に訪れたショッピングモールの5階、展望スペースのベンチの上。の、アリスの膝の上。
窓から差し込む光は金色に輝いている。その光の中に2人の人影が見えた。言うまでもなく、クウヤとウォシュレットである。フウカの姿は見えない。
「おはよう、奏唄」
「おはよ」
ちゃんと、自分の意思で口を動かせる。冷たい声も出なくなっていた。
「ぼく、どのくらいこうしてた……?」
「1時間ぐらいかな? いきなり倒れるし、びっくりしたんだから!」
もーっ、と、頬を膨らましつつぼくの額をぺちぺちと叩くアリス。笑ってはいる。笑ってはいるが、この状況下に置かれているのはアリスも同じ。無理をして笑顔を作っているのがまるわかりだった。
「カナタ」
「クウヤ……どうした?」
「お前が寝てる間に俺たちでいろいろ考えたんだ。そして、一つの考えにたどり着いた」
この世界は、嘘の世界である。
まず、時計はまわっているが時が進んでいない。公園にいるときに夕陽が沈みかけていたにも関わらず、一時間経った現在も太陽は変わらぬ位置で光を放ち続けている。
フウカが保護した市民もそうだ。今隔離世界へ確認へ行っていて、先ほど連絡が来たが、市民は何も残すことなく綺麗に消えていたそうだ。
「よって、この世界は嘘の可能性がある。確定できる証拠はないが、そう考えるのが妥当だろうという結論だ。そうなると、実際は侵略などされてなどいない可能性も浮上する」
この世界が、ぼくの故郷の世界ではない。
そうなると……親父、母さん、姉ちゃんも……?
「じゃあ、ここは何?」
「コトトの夢に類似した魔法により、意図的に生まれた世界か。どちらにせよ現実ではない。必ず脱出する方法があるはずだ」
「でも、確定じゃないんだろ?」
「へっ……」
物は試し、当たらなきゃ砕けねぇだろ?
そう言って、クウヤは唇を歪めた。




