凍なる青年
後から聞いた話だが、親父たちはアリスやウォシュレットがこの世の存在ではないことに気がついていたそうだ。
「私が辺り一帯の人を隠したときにね、奏唄くんのお父様はこう言ったわ。「一人もいないというのは不自然だ。私はここに残る」って」
「親父が…そんなことを……」
親父ではない何かから逃げ切り、小さい頃にお世話になった懐かしい公園のベンチに夕陽を浴びながら腰掛けたぼく。隣に座るフウカと、錆びてキィキィと音を立てるブランコに背中を向けて座り、俯くアリス。
ウォシュレットとクウヤは親父ではない何かを殺しに行った。
「もちろんダメだと言ったわ。奏唄くんの家族を救わないわけにはいけないし、ましてや見殺しにするなんて、できるわけないもの……ごめんなさい」
責めるなら、私を責めて。
「変革を……」
「え……?」
「この状況に、変革をもたらすにはどうしたらいい?」
「変革って、私たちがどうこうしたところで……」
「いいから。方法はあるのかと訊いてるんだよ」
自分でも信じられないほど冷たい声が出た。
同時に、口から白い息が出、手に持っていたペットボトルのジュースがパキパキと凍てついた。
「奏唄、くん……?」
「早く答えろよ」
口から出たのは、そんな言葉。
自分でも望まない、鋭い氷の言葉。
「うっ……」
心臓が凍ったかのように冷たい。
地面には薄く氷が張り、雑草には霜が降りた。
『ぼくの魔力、君にあげるよ。ぼくと君は似た者同士だし、同じ運命を辿って生きている──』
だから、ぼくと君はひとつになるべきなんだ。
「誰だよ……お前……!」
『ぼくは君さ』
「ぼくはぼくだ! お前はぼくじゃない!」
『ぼくは君さ。君なんだよ。織宮 奏唄なんだよ』
さあ、こっちへおいで? 力になってあげるから。と、青年は甘い誘うような声でぼくに問うた。
「奏唄くん!? どうしたの!?」
「黙れ!」
またしても、口が勝手に動く。
『早くしないと邪魔が入るよ』
「お前を受け入れたら……解決できるの?」
『君次第さ』
「そうか…そうだよね……」
ぼくは、ゆっくりと差し伸べられた青年の手を握った。
身体中を駆け巡るヒヤリとした感覚。だが、嫌な気持ちにはならず、むしろ心地よささえある。
『ぼくは力。君の魔法の源になる存在』




