帰宅
竜に乗って空を飛び、時空を超えて日本に帰ってきた。本当、なんでもありだな。
「では、私は用があるので」
と、言ってウォシュレットは消えていった。
竜はウォシュレットの指示を受けて春都に帰っていったようだ。知能がすごい。
「ただいま〜」
「おかえりなさい。奏唄、ちょっと来な」
「……はい」
久々の我が家! やっと自分の部屋で落ち着ける!
そんなわけがない。数日間家に帰れなかったわけだし、連絡もしていなかった。説教を受けるのは当然だろう。
「まあ、そこに座れ」
親父に促され、ダイニングの椅子に腰掛ける。
隣に誰かが腰掛ける。え、待って。誰……?
「今回の件ですが、私に責任があります」
声を聞いて、ぼくは絶句した。
「ウォシュレット…──」
マジイミワカンネ。
なんでこいつがここにいるんだっ!?
「ウォシュレットくん、どういうことだい?」
「少しお待ちください。姫、早くこちらへ」
廊下とリビングを繋ぐ扉がゆっくりと開く。
アリスはゆっくりと歩いて、ぼくの隣の席に座って俯いた。
「姫、全てをお話しすると誓ったではありませんか」
「でも……」
「私がお話ししましょうか?」
「いや……私が話すわ」
なんの話をしているのかわからない。でも、それは〝他人にはあまり打ち明けたくないこと〟なのだろう。
「お父様。初めに告げますが、私たちは人間ではありません。この世界の者でもありません。異世界にある国、春都というところからやってきた者です」
理解できないだろう。と、親父のほうを見ると親父は真剣な表情で軽く頷いている。
「私はその国の王の娘であり、数多くある異世界の各国から命を狙われる存在です。そしてこの日本にも、異世界からの魔の手が伸びました」
真剣に話すアリスを初めて見た。さすがは一国の姫、話すところは話すし、大切な部分をわかりやすく話している。
「今回の件も、理由はそこにあります。あの日、私は命を狙われました。突然の出来事だったので、その場にいた奏唄も連れて逃げました」
うんうん……いや待て! お前命なんて狙われてないだろ。ウォシュレットが暴走したから帰ったんじゃん。
「そうだったのか……。君が……」
「え……?」
「キミガ……キミキミキミキミキミッ!!」
「逃げてください二人とも!!」
鎖に繋がれた鎌が振り降ろされる。ウォシュレットが剣でそれを弾き、一定の間合いを保ちながら親父のはずの生き物に語りかける。
「何者だ! 奏唄様のお母様とお姉様はどこだ!」
「シ、シシシンダ。シン…ダ……」
「死んだ……?」
「コロスコロスコロス!!」
無差別にすべてを斬り刻む謎生物。
もう、親父じゃない。母さんも姉ちゃんも……。
「奏唄! あいつが言ってることを信じちゃだめ!」
「そう、だよね……うん」
「奏唄様、姫、今は逃げましょう!」
家の前の通り慣れた道を三人で走る。あいつが追ってくる気配はないが、走るしかなかった。
アリスと出会ったことで変わった日常。
ウォシュレットと出会ったことで変わった日常。
気付いた時には、日常など存在していなかった。




