操術師
クウヤは朝早くから日本にいた。カナタを安全に返すための下見だったのだが、事態は思わぬ方向に進んでいたらしい。
壊滅状態の街。空を飛び、地を這う奇形生物。
「他の世界からの使者が荒らしたっぽいな」
人気のない街を見下ろし、クウヤは呟いた。
「……っていう夢を見たんだよ」
「いやあの、見たんだよって言われてもだな」
ぼくとクウヤは向かいに座って朝ご飯を食べる。
コトトの仕業か……? と疑いたくなるぐらい、リアルな夢だった。起きた直後は「本当にクウヤがいなかったらどうしよう」とか考えたけど、幸いクウヤは寝ぼけ眼をこすりながら朝食を摂りにきた。
「日本、行ってないよね?」
「行くわけないだろ……眠いし……」
クウヤはもしゃもしゃとレタスを頬張る。
「まずっ……! 味しない……あ、ドレッシング」
「兄さん……。本当に朝弱いね」
「起きるという行動ほど辛いものはないな」
ばばばっと目玉焼きにベーコン、それにサラダを平らげてからジュースを飲み干した。
「うっぷ。ごっそさん。あ、奏唄」
「ん?」
「早く食べて、俺の部屋に来てくれな」
「ん……?」
「えーっと、どこかね〜」
広いんだよ! 何回通っても迷うんだよね。
ぐるぐると歩き回り、20分ほどしてから目的の部屋を発見。戸を叩く……「変わらないわね〜」?
扉の中からの音声に耳を傾ける。
「で、あの辺一帯の市民を隠したのか?」
「ええ。そうでもしないと偵察兵に殺されてた」
ぼくは扉を開けた。クウヤともう一人の女性がこちらを見ている。
「おう奏唄」
「今の話、なんだよ?」
「詳しいことは私が説明するわね」
ジーパン、白のTシャツに黒のパーカーを羽織るといった楽な服装の女性。
「初めまして奏唄くん。クウヤから話は聞いてる」
「えっと、あなたは?」
「私はフウカ。クウヤとは長い付き合いなのよ」
「で、さっきの話は?」
んんっ、とクウヤが咳をする。
「俺が話す。奏唄、心して聞け」
「うん」
「日本……それもお前の家の付近に異世界からの客が来ているそうだ」
「客って……」
客=敵、もしくは味方ではない存在か。
「戦地の偵察に来たのか、はたまた単なる旅行かは知らんが、少なくとも危険なことに変わりはない。だからフウカに頼んで、あの辺一帯の市民を異世界からの兵に見つからないように魔法をかけてもらった」
「そういうことね。フウカさん、ありがとう。でもさ、どうしてぼくの家の近くに来たの?」
「まあ、俺たちの残り香だろうな」




