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ぼくと彼女の変わった日常。  作者: ねむ。
変わった日常。
33/65

オール・クリア

「なんだ……これ……!」

「奏唄様!」


本に描かれた魔法陣から伸びる手が、ぼくの首を掴んで離さない。人間の手の形をしているのに、爪は尖って皮膚は鱗のように変形している。


【邪魔ヲスルナ】


脳内に突然響く低い声。


「お前…カカハ……か? そう…なんだろ?」


締め付けられた喉から精一杯の声を押し出す。すると、首を握り締める力が少し弱まった気がした。


【私の願いは……】


「今、叶った」

「……っ!」

「久々の現世だ。やはりここに来ると、怒りがふつふつと湧いてくる」


ウォシュレットの声で……


「ふむ、この身体も悪くはないな」


ウォシュレットの身体で……


「さあ! 時は満ちた!」


でも、中身だけが違う。

カカハ・フラネオがウォシュレットの中にいる。


ぼくは魔法陣から伸びる腕を、クウヤに借りたままだったナイフで斬りつける。浅い傷しか与えることができなかったが、手は離れた。


「カカハ・フラネオォォォォ!!」

「お前誰だ? 目障りだ。消えろ」


悪魔のような双眸でこちらを睨むカカハ。それだけで凄まじい衝撃がぼくの身体を正面から叩いた。吹き飛ばされ、本棚に背中を打ち付ける。


「かはっ……」

「いひゃひゃひゃ! あー愉快だ。いい、実にいいよ!」

「うっ……くっ……」


起き上がることのできないぼくに叩き込まれる多くの拳。痛い。痛い。


……でも、痛くない。

何より、今一番痛い思いをしているのはウォシュレットのはずだ。こんな、気持ちのない拳とは訳が違う。


「ははっ」

「なんだぁ? なぜ笑うのだ貴様!」

「笑ってるんじゃねーよ」


カカハが目を見開く。口から血が流れた。


「嗤ってるのよバーカ」


カカハの胸は、アリスの剣によって貫かれていた。


あれ待てよ? 中身がカカハなだけであって、身体はウォシュレットなんですけど……。

ウォシュレットなんですけど……?


「ウォシュレットの身体を傷つけるとは……はぁ……大した暴挙に出たな……っ」

「知らないわよウォシュレットなんて。あいつはねー、なんだかんだで助かるのよ!」


ブス、ブス、ブス。もう一つブスっとな。


アリスが黒ひげ危機一髪かよって言いたくなるぐらい、ウォシュレットの身体に容赦のない刃を突き立てる。とてもみなさんにはお見せできません。


「カカハ・フラネオ。一つ答えろ」

「なん……だ……」

「どうして今になって現れた?」

「大戦……」

「はっきり言え」

「じきに異世界大戦が始まる。多数存在する異世界が争い、ばらばらの世界を一つに統一しようと戦う。だから私は……今……」


ウォシュレットの身体から力が抜ける。

カカハの意識が消えたのだろう。というか、もしかしたらリアルにリアルなアレかもしれない。


「アリス! 早く応急処置! ウォシュレットが死んじゃうよ!」

「あー、はいはい」



のちに確かめたのだが『彼は人喰いの龍神様』の内容は綺麗さっぱり白紙に戻った。ただ、一番前のページに「私の願いは分かたれた」と記されていたのが気になるところだが。

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