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ぼくと彼女の変わった日常。  作者: ねむ。
変わった日常。
32/65

歩く

「うぅ〜、さみぃ〜」

「…………」


 吹雪の中の暗がりを、手の上で揺らめく火の玉の灯りを頼りに歩く。


「むー」

「どした?」

「歩きにくい」


 アリスの足を覆うのは、薄いピンク色のヒール靴。こいつはあれだな、バカ。

 雪の中をヒールで歩くやつなんて初めて見たわ。


「ほら」

「なによ」

「おんぶ」

「…………」


 火の玉をアリスに渡し、両手をフリーにする。

 背中にアリスが乗ってくると、どことなく安心するし、あったかい。……ちょっと柔らかい。


「奏唄、ごめんね」

「ん? いきなりどうしたの?」

「私さ、奏唄にいっぱい迷惑かけてるよね……。

 私を見つけてくれたことで、奏唄が得したことなんてないよ。コトトのこともそうだし、ウォシュレットはあんなだし……」


 ──ほんと、ごめんなさい。


「アリス……?」

「すー……すー……」


 寝ちゃったみたいだ。

 ぼくはただひたすらに龍族の国を目指して足を進めた。



「この匂い……」

 ウォシュレットは、自宅のベッドの上で飛び起きる。慣れ親しんだ2つの香りが鼻腔をくすぐるのだ。


「まさか……!」


 上着を持って、ウォシュレットは飛び出した。



「ん……?」


 なんかあったかい。あれ……? ぼく、横になってるのか?


「気が付かれましたか」


 呆れたような笑みを浮かべてこちらを覗き込む縦に裂けた瞳孔。


「ウォシュレット……?」

「はい、ウォシュレットですよ。あ、今あたたかいスープを持ってきます」


 これはどういう状況ですかね。

 ウォシュレット探しに……つーか、追ってここまで来たはずなのに、記憶がないのはどういうことでしょうか。


「カナタ……ごめ……」

「はぁ、寝言言ってるし」


 銀色の髪をすく。アリスはふにゃっと口元を緩めた。


「こうしてると可愛いんだけどな……」

「ですね。はい、キノコのスープです」

「ありがと」


 スープを口に含む。優しい甘さが広がって、身体も芯から温まっている気がする。


「昨日、ぼくはこの家にたどり着いたの?」

「いえ。奏唄様と姫は、二人で雪の上に寝ていました」


 まぁ、無事でよかったです。と、ウォシュレット。


「ウォシュレットに運ばれたのか……。ごめんな、無駄な迷惑かけちゃって」

「いえいえ」

「それにしても……」


 木の、いい匂いがする部屋だな。

 家具も全て木製。住人であるウォシュレットのこだわりが感じられた。特に壁の本棚。題名順に揃えられているよう──あれは。


 目に留まったのは『彼は人喰いの龍神様』。


 やはりウォシュレットは持っていた!


「ウォシュレット、お前、あれ!」

「もう、そこまでたどり着きましたか……」


 ウォシュレットはその本を取り出して、机の上に広げた。


「これが、お前の先祖から伝わる……?」

「はい。呪いの本です」


 本を手にとって内容を確かめる。


 ……読めないんですけど。どうしよう。


 中に記されているのは文字列ではなかった。

 黒いインク……いや、これはおそらく血だろうと思われる物で描かれた魔法陣(、、、)


突然、そこから手が伸びた。

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