終、終わりのない話
夢の世界を抜けた先が私の部屋だ。
いつもはベッドの上のくまさんに抱きついて悶えるのだけど、今回は優先するべきことがある。
「彼は人喰いの龍神様……」
コトトは、懐から気持ちの悪い空気感を持つ本を取り出して机の上に置いた。
「クウヤ」
「ん?」
「彼は人喰いの龍神様。この本の秘密を教えてくれない? 危険なのは承知してるし、深いところまで関わるつもりはない。ただ内容を知りたいだけなんだ」
はぁ……、と、クウヤが呆れを見せる。
「主人公……後に厄災の龍と呼ばれた男の名はカカハ・フラネオ。世界に絶望し、自分の血を継いで生まれてくる者たちが世界を潰すことを宣言した、とんでもない男だ」
奴は龍族の戦士だった。後輩に慕われ、憧れられるような存在の男だ。他国との戦闘を行うが、勝率はピカイチ。負け無く戦争が終わり、幸せに暮らせると思っていた。
──そんなとき、大切な人が殺された。
敵国のスパイが、出産直後の妻を殺した。
彼は激怒し、理性を失った。
「この先はカナタも目の当たりにしたろ?」
「ウォシュレットの……」
「そう。魔力が溢れ出した」
ふつふつと湧き上がる衝動に身を任せ、敵を喰らい、仲間をも喰らう。辛うじて護り通したのは、生まれたばかりの小さな命。
『ああ、この世界は理不尽だ』
息子を護るため、彼は厄災の龍となる。
「これが話の内容だ。カカハ氏の深い愛から生まれた憎しみが、日に日に増大してこの日まで受け継がれてきた。一冊の本を通してな」
「今日まで? え……、嘘……」
「お前は本当、話が早くて助かるよ」
今までのことを題材にして考えてみると、導き出される答えはたった一つ。
ウォシュレットが、厄災の龍の末裔だということ。
「ありがとうクウヤ。おかげで手遅れにならずに済みそうだよ」
「どってことねーよ。あっちは寒いぞ。ちゃんと装備整えて行ってこい」
もう夜も更けた。寝ようと身支度を整えていたところに声をかけられた。
「クウヤ」
「ん……!? あぁ、親父か。ただいま」
「おかえり、家出野郎」
Tシャツにジーンズ。王様とはかけ離れた恐ろしいぐらいのラフファッション。これでも俺の親父、春都を治める王だというのだから驚く。
「アリスも帰ってきてるぜ。ついでに……」
「織宮くんだろう? さっきすれ違った」
「そ、そうか……」
「ああ。全く気づかれなかったよ。軽い会釈だけだった! 微妙に悲しかった」
何なんだこの人!? 何しに来たんだよ!
まあ、こんなクソみたいな話をしにきたわけではあるまい。と、信じたい。
「大丈夫。俺は全部知っているから」
親父は真剣な声のトーンで言った。
それだけで、全部=ウォシュレットの症状だということを直感的に理解する。
「解決策は、あるのか?」
「あるにはある。が、解決するにはウォシュレットくんに頑張ってもらうしかないね」




