呪われし……
ざっ、ざっと地面に積もった雪を踏みしめて歩く。竜龍の猛る声が聞こえ、なんとなく懐かしい。
「ただいま」
木製のドアを開けて、我が家に伝える。
壁の暖炉に火を焚いて電気をつけるが、この家には私しかいない。いくら明るく、暖かくしようとも、心は晴れないし冷たいまま。
「はぁ……」
ベッドに寝転び、深いため息をつく。安息と自分への呆れが入り混じっている。
「どうしたものか……」
〝あれ〟はいつ顔を出すかわからない。むやみに外に出るよりは家に篭ったほうが安全だろう。
久々の我が家を見渡すと、本棚に置かれた一冊の本に目が留まる。題名は……
『彼は人喰いの龍神様』
「冗談じゃない!」
私は人を喰らった。それは確かな記憶として残っているし、鉄のような、硬い筋肉を噛みちぎった覚えもある。
だが、それは私の意志ではない。
服を脱ぎ、自分の身体を確かめる。
心臓のあたりの皮膚が硬く、割けていた。
「やはり蝕まれているのか……」
『カカハ・フラネオ』
この国の英雄にして厄災の竜。そして、私の先祖にあたるお方。
隅に隠していたその記憶を、思い出さざるを得なかった。
ウォシュレットが見当たらなかったので、クウヤの部屋に戻り、尋ねると……
「ウォシュレットな、故郷に帰ったわ」
「「はぁーー!?」」
「帰ったもんは仕方ねーだろ」
なんというタイミング……! ウォシュレットのタイミングの悪さには感心するね。
「なに、なんか用があったのか?」
「あったのよ! はぁ、まあいいわ。兄さん、彼は人喰いの龍神様って知ってる?」
「やめとけ」
「え……?」
「その物語を深く理解しようとしてはいけない」
クウヤの目は、真剣だった。
「あの本は呪われてる。あれは、主人公の男が子孫に向けて書いたものだ。俺たちに関わる余地はない」
絶対に関わるなよ。そう言い残し、クウヤは部屋から消えていった。
例えるならば、これは悪夢だ。
悪い感情。憎しみ、怒り、呪い……。そんなものの集合体がこの本だと、コトトは感じていた。
ペラペラとページをめくる。物語が10ページほど。挿絵が5ページほど。その後は白紙。
「これ……、変……」
物語は成り立ってはいる。だけど、1ページごとに違う。何が違うって、書いている人が違うように思う。微妙な表現だったり、字体だったり。よく見れば簡単に気づく。
「調べてみよ……」
コトトは本を閉じて懐にしまった。




