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ぼくと彼女の変わった日常。  作者: ねむ。
変わった日常。
30/65

呪われし……

ざっ、ざっと地面に積もった雪を踏みしめて歩く。竜龍の猛る声が聞こえ、なんとなく懐かしい。


「ただいま」


木製のドアを開けて、我が家に伝える。

壁の暖炉に火を焚いて電気をつけるが、この家には私しかいない。いくら明るく、暖かくしようとも、心は晴れないし冷たいまま。


「はぁ……」


ベッドに寝転び、深いため息をつく。安息と自分への呆れが入り混じっている。


「どうしたものか……」


〝あれ〟はいつ顔を出すかわからない。むやみに外に出るよりは家に篭ったほうが安全だろう。


久々の我が家を見渡すと、本棚に置かれた一冊の本に目が留まる。題名は……


『彼は人喰いの龍神様』


「冗談じゃない!」


私は人を喰らった。それは確かな記憶として残っているし、鉄のような、硬い筋肉を噛みちぎった覚えもある。


だが、それは私の意志ではない。


服を脱ぎ、自分の身体を確かめる。

心臓のあたりの皮膚が硬く、割けていた。


「やはり蝕まれているのか……」


『カカハ・フラネオ』


この国の英雄にして厄災の竜。そして、私の先祖にあたるお方。

隅に隠していたその記憶を、思い出さざるを得なかった。



ウォシュレットが見当たらなかったので、クウヤの部屋に戻り、尋ねると……


「ウォシュレットな、故郷に帰ったわ」

「「はぁーー!?」」

「帰ったもんは仕方ねーだろ」


なんというタイミング……! ウォシュレットのタイミングの悪さには感心するね。


「なに、なんか用があったのか?」

「あったのよ! はぁ、まあいいわ。兄さん、彼は人喰いの龍神様って知ってる?」


「やめとけ」


「え……?」

「その物語を深く理解しようとしてはいけない」


クウヤの目は、真剣だった。


「あの本は呪われてる。あれは、主人公の男が子孫に向けて書いたものだ。俺たちに関わる余地はない」


絶対に関わるなよ。そう言い残し、クウヤは部屋から消えていった。



例えるならば、これは悪夢だ。

悪い感情。憎しみ、怒り、呪い……。そんなものの集合体がこの本だと、コトトは感じていた。


ペラペラとページをめくる。物語が10ページほど。挿絵が5ページほど。その後は白紙。


「これ……、変……」


物語は成り立ってはいる。だけど、1ページごとに違う。何が違うって、書いている人が違うように思う。微妙な表現だったり、字体だったり。よく見れば簡単に気づく。


「調べてみよ……」


コトトは本を閉じて懐にしまった。

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