先祖から子孫へ
昔々、あるところにカカハと言う名の青年がおりました。
カカハは龍の血を受け継いでいて、肉体的にも、精神的にも、それはそれは強い男でした。
ある日を境に、カカハは恐ろしい存在となってしまいました。なんと、大切な人が敵によって殺されてしまったのです。
『ああ、この世界は理不尽だ』
カカハは本能的に大切な人の肉体を喰らいました。そして、敵軍を一人で滅ぼしてしまいました。戦場には、たくさんの食べ散らかされた死体が転がっていました。
仲間を失い、大切な人をも失った彼はこう言いました。
『理不尽なこの世を潰す意思は、子孫から子孫へと受け継がれて行くだろう』
「っていう話」
「これは、言い伝えなの?」
「どうだったかしらね。多分そうだったと思う」
言い伝え……。
だとすれば、この話は必ずウォシュレットの故郷に伝わる話のはずだ。
と、アリスが「うーん」と唸った。
「なーんか大切な部分が抜けてる気がするの」
「おいおい!」
「待って。確かあの本はまだどこかにあるはずなの。大切にしてたものだから……」
探すしかないだろう。
「探そう。謎を取り去るためにも!」
ぼくたちは書庫へと駆け出した。
「カカハ・フラネオ」
無意識のうちに、コトトは呟いていた。
カカハ・フラネオというのは、アリスの家で読んだことのある本の主人公だった。
龍族で、龍神様であり、同時に……
「あの男と……、同じ……、みょうじ……」
『ウォシュレット・フラネオ』
普段は『ウォシュレット』と名乗っている騎士団長だけど、その後にフラネオと付くことを知ったのは最近のことだ。
あの男の夢を覗いた際、夢の片隅に置き去りにされていたのを見つけてしまっていた。
「アリスも……、知らない……?」
可能性が高い。同時に、夢の片隅にあったということは、ウォシュレット本人の記憶からも消えている可能性がある。
コトトは足を止めた。ぱしゃっという音と共に、足元から水面に波紋が広がる。
人差し指で空間を縦に割く。
すぅーっと開いた、その先にあったのはずっと昔、アリスに借りた一冊の本。
「…………」
まあ、いいかな。
漁る。漁る。漁る。漁る。
壁一面の本棚。びっしりと並ぶ本。
「ないないなーいっ!」
「捨ててないならあるだろ」
「検知にもひっかからないし、どこに置いたかなんて覚えてないしー。うーっ!」
「探すしかないって」
「そうだけど! そうなんだけど!」
探すしかない、とは言ったものの。
総数10000は超えるであろう本の中から一冊を探し出すのは至難の技だ。砂漠から一粒の砂を探すほどの無謀さではないけど、二人でこの数は……。
「つーか、ウォシュレットにきけばよくね?」
「……あっ」




