帰郷
会議はおひらきとなった。あれやこれやと悩み、苦悩しているうちに日が暮れてしまったためだ。
ちなみにぼくは、アリスの部屋に来ています。
「広っ」
「ただ広いだけよ。私は奏唄の部屋のほうが落ち着くわね」
「まあ、確かにね」
落ち着くか落ち着かないの二択で問われると、確実に後者だろうと思う。広くて、家具も天蓋付きのベッド、白地に金色の装飾が施された揃いの家具たち。確かにオシャレだけど、どこか寂しい雰囲気を拭えない。
「で、話って?」
そう。ここに来たのは、単にアリスに呼ばれたからだ。「話があるの」とね。
用もなくアリスの部屋に来るはずがないでしょ?
「ウォシュレットのことなんだけどね」
「うん、あいつがどうした?」
数秒の間の末、アリスが話す。
「コトトたち……眠族の〝血〟の臭いがするの。返り血とかのレベルじゃない。ウォシュレットの身体の中から……」
「まさか、そんなはずがないよ。ウォシュレットがあいつらの血を飲んだとでも?」
さすがにそれはないだろう?
と、付け加えようとした瞬間。
「ありえる。もしかしたらもっと酷いかもしれないわ。例えば……これは例えばの話よ? ウォシュレットが、眠族の人たちを捕食した……とか……」
否定できなかった。何故かはわからない。
その例えがしっくりきてしまった。
「どうして、そう思うの?」
「わからないけど……昔、こんな本を読んだことがあるの。題名は確か……」
『彼は人喰いの龍神様』
喰べたい。肉を噛み切り、血を啜りたい。
「なぜなのだ……? どうして私が……」
抑えようにも抑えることができないのだ。
ウォシュレットは団長室の石壁を殴る。殴る、殴る。強固な壁はビクともしない。拳からは血が流れ……
「血……! 血だ!」
傷口を舐めてから我に返る。
「私の身に何が起こっているのだ……!」
ピキピキと腕の皮膚が割れ、鱗のようになってゆく。痛い。苦しい。が、暴れそうになる意識を正常に保つことに専念した。
「グ…ル……マズイ…はぁ…魔力が……」
触手が私の身体に突き刺さる。
「封印式〝00〟魔喰ノ王、召喚」
この声、触手の主はクウヤ様だ。
身体から魔力が抜け、皮膚は元に戻り、人ならざる衝動も収まった。
「ウォシュレット」
「はぁ、っはぁ。はい、なんでしょう」
「一度冬都に帰れ」
「はっ?」
「冷静になれ。今のお前は、ただ周りに迷惑をかけているだけだよ。一度故郷に帰り、ゆっくり休め」
クウヤは真剣な目をしていた。冗談などではなく、本気で私に言っているのだ。
「……では、しばらく休暇をいただきます」
「ああ。お前が必ず帰ってくると信じてるよ」




