春都の城
「私……帰って……いい……?」
コトトの言葉である。実に面倒くさそう。
まあね、確かに幼なじみのアリスちゃんを助けてあげるのはわかる。ぼくとコトトの間には、敵以外の関係が見当たらないよね。
「助けてくれてありがとう」
「……アリス、ばいばい」
ガン無視だ。さすがに傷つく。
コトトは、夢の中に消えて行った。
アリスに案内されて、城下街にやってきた。
石畳の坂道。街の住民である猫耳尻尾の人々は活気に溢れて道を行く。
「ようこそ、私の国へ!」
訂正しておくが、お前の国じゃない。お前の親父さんの国だ! そこ、間違えないように!
でも、なんつーか、あの……えー……
「お前、本当にお姫様なのな」
「今更っ!?」
だってさ、猫なで声=「にゃー」って思ってるようなバカちゃんだよ? ああ、バカだからお姫様なのか。世界中のお姫様に失礼だぞ奏唄っ!
「おお……」
「なに?」
「みんながぼくを見てる……!」
「私を見てるのよ……」
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて。
息が切れかけた頃、目の前に門が現れた。
「扉、開けてくれるかしら」
びしっ! と、敬礼を決める門兵さん×2。
二人は門を押し開け、再び敬礼を決める。
「さ、行きましょ!」
「お邪魔します……」
やはり、門の先も広かった。
桜の木が咲き乱れる、ちょっとした広場ぐらい広かった。広いから広場なんだろうけど、狭いところを狭場とは言わないよね。どうでもいいか。
「ん……?」
石造りの立派な城。これが春都城だというのはすぐにわかる。
ぼくが違和感を感じたのは、その隣。
「あれ、なに?」
「倉庫」
ちゃんとした扉があって、窓からは光が漏れて、さらに煙突からは煙がのぼっている。
「あれ……」
「倉庫」
倉庫……なのか……。
それならそれでいいんだけどね。
キラキラ! ピカピカ! 高級!
ってほどでもなく、城の内装は落ち着いていた。
長い螺旋階段を上がった先。
一つの扉の前にたどり着く。
掲げられた表札には「俺の部屋」とあった。
「兄さーん」
アリスの声で、部屋から出てきたのは、もちろんクウヤだ。
「おうアリス、それに奏唄」
と、クウヤの背後から何かが来る。
「奏唄さ……ぶえっ!」
「ウォシュレット、元気そうでなにより」
ぶえっ! というのは、飛び抱きつきをしようとジャンプしたけど、ちょうどのタイミングでぼくに殴られたウォシュレットの声である。
「まあ入れよ。話し合いを始めよう」




