一時的避難
「奏唄」
「ち……さ……」
なぜ、こいつがここに……?
「奏唄、あの娘だれ……?」
「ぼくの幼なじみ。家も近所だよ」
だけど、普通の人ならこんな明らかに事件の香りがする場所には近づこうとしないはずだ。知砂も例外ではない。
「奏唄、他にも誰かいるよ」
現れた二人組。
男性はカメラを構え、女性はマイクを持っている。女性のほうはテレビで見たことがあるような人だった。
「この人たちが、事件のことを知っているの?」
「はい。私はそう思います」
なんだ? どういう状況だ?
「この人たちが犯人です。
会話の内容も全部、私の携帯に録音しました」
知砂が、ぼくたちを売った?
「少し、事情を聞かせてもらえるかな?」
さらに現れる数人の警官。
ぼくとアリスは警官に囲まれ、身動きの取れない状況に追い込まれた。
漂う甘い香り。
近づいてくる足音。
灰色に染まる夕焼けの空。
現れたのは、紫の少女。
「助けに来たよ、アリス」
「コトト!」
すぅーっと、世界に色が戻った。
双子の月、水の張る地面。
考えるまでもなく、コトトの夢の中だ。
「今回は……、ワープゲートとして……、使うだけ……。長居は……、できない……よ」
コトトの言葉に呼応するかのように、月明かりに照らされていた世界に光が射した。
「この先は春都……、行こ……」
「うん。こんな形で初春都に行くとは……」
「奏唄! グダグダしてないで行くわよ!」
桜が咲き乱れる平原。
日本では信じられないような、胸を打つ美しすぎる光景が広がっていた。
ぽかぽかと春の陽光に照らされ、どこか楽しげに伸びる草花が印象的な世界だ。
「ようこそ奏唄。私の故郷へ」
「お邪魔します……」
二人で微笑む。ああ、何故か気分も良くなってきたなぁ……ピリリリ、ピリリリ。
「だれ? 今忙しい……あ、クウヤ」
軽くクウヤに事情を説明すると、
『おまっ、ばかやろう! 入れ違いじゃねーか!
……と、見せかけて、俺もまだ春都にいんだよね。城に来いよ』
「一瞬ビビったじゃねーか。了解、行くわ」
ピッ、と受話器を置くボタンを押す。
「城に来いって言われた」
「ん。案内するわ」




