暴走×2
死体の山。その上に座る者が一人。
「グジュ……グヂ……キチャキチャ……」
輝く頬の紋様と両の瞳。死体になってはいるが、生きていたこいつらを斬り伏せた剣は、忘れられたかのように離れた地面に転がっていた。
その〝竜の瞳〟が次に捉えたのは……
「ここ……?」
「ああ間違いない。アリスはここにいる」
辿り着いた先は、古びた倉庫だった。
もう長い間使われていないのであろう、放棄された車や電化製品が辺りに転がっていた。
少し開いた扉から中を覗き見る。
中央にある柱に拘束されている少女が一人。間違いなくアリスだが、立っている紫の少女の上空に、悪い気配がする何かがあった。
あれは、確実に人を殺せるものだ。
「カナタ、早まるな」
「でも……アリスが……!」
「俺の能力があるだろ?」
クウヤは立ち上がると、例のごとく腕から触手(吸収針というらしい)を出して倉庫の中に伸ばし入れる。紫の少女に気づかれないように壁伝いに伸びた触手は、天井付近に浮かぶ何かに近づき、一瞬でそれを消し去った。
「行くぞ!」
クウヤに投げ渡された短剣を握り、ギィ……と扉を開けて中に入る。
「アリス!」
「奏唄……!」
アリスを拘束していたロープを切る。それと同時に叫び声が聞こえた。
「あぁ……あぁぁぁぁあっ!!」
紫の少女が頭を抑えて何かに耐えている。
「あの子の名前はコトト。ずっとおかしいの」
助けに来たのには触れない……か。
こいつ、かなり動揺してやがるな。
「詳しい話は後で聞く……うわっ!」
紫色の鎌のようなものがぼくの頭部を薙ぐ。慌てて伏せたからよかったものの、気づかなかったら死んでた。やば……。
……いや、ぼくの頭部を薙いだわけじゃない。
コトトの背中から数十にも及ぶ触手が伸び、倉庫の中を暴れ回っていた。窓ガラスを割り、コンクリートの地面を抉る。
突然、数本の触手がボタボタッと地面に落ちた。
クウヤが斬ったのだ。
「あー、やっば、死にそう」
「えっ? あ、あ、あんた……!」
「ふっ、久しぶりだなアリス」
「んなっ! 何でここにいんのよバカ兄!」
「はっはっは! 助けに来たんだよマヌケ!」
クウヤが剣を地面に突き刺すと、剣を中心にゲームで見たことのあるような魔法陣が展開した。
「八式魔法陣〝空咲〟」
地から舞い上がる桜の花びら。それは、コトトの触手を斬る。だが、身体に傷はついていない。恐らく、魔法だけに干渉する、そういう魔法なのだろう。
「見てください。今、私の目の前では信じられない光景が広がっています」
マイクを持ったお姉さんと、それを映すカメラを抱えたお兄さん。
知砂は、目を閉じたくなるような光景を目にしていた。




