兄、現る
「ぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴ」
「んーっ」
枕元に置いてある目覚まし時計を叩くようにして止める。ぼやける目を擦りながら時間を見ると、まだ朝の7時を過ぎた頃だった。
「ふわぁーっ」
ベッドから出て、スリッパを履きつつフリースの上着を羽織る。
目が覚めてしまったので、水でも飲みに行こうと自室の扉を開けると、床に点々と紅い何かが垂れていた。それは階段の下まで続いている。
「ん……?」
違和感を感じたぼくは、急ぎ足で一階へ下りてリビングへと続く扉を開いた。
リビングの真ん中。ダイニングテーブルの白いイスに腰掛けた少女。
「アリス……? こんな所でなにして……」
返事はない。なぜなら、アリスの胸には綺麗な彫刻の施されたナイフが突き立っていたから。
暗転。
明転。
「起きろ。おい、いつまで寝てんだ」
ぺちぺちと頬に衝撃があった。
目を開けると、まず銀髪が目に入った。
「アリ……ス……?」
「違う。俺はアリスじゃない」
横になっていた身体を起こす。
しっかりと相手の顔を見ると、やはりアリスではなく、アリスに似た少年だった。
「お前の名前、カナタで合ってるか?」
「うん。君は……?」
「俺はクウヤ。アリスの兄だ」
銀髪の少年、クウヤ。
彼は、やはりアリスに似た表情で笑ってみせた。




