17/65
夢と紫の少女
全体的に「紫」の、住宅街とはミスマッチな
少女は確かにアリスの名を呟いた。
「アリス、知り合い?」
「……」
アリスの様子がおかしい。ブルブルと震え、目からは光が消えている。ボーッとしているようだが、隙はない。
「おい、アリス?」
「ふふっ、ふふふっ……」
次の瞬間、アリスの手に握られた透ける赤の剣がぼくの頬を浅く裂いた。
「……っ。いきなり何すんだよ!」
「ふふ……なにも……しない……よ……?」
アリスの様子が明らかに変だ。
ぼくは急いで自転車にまたがり、全力でその場から遠ざかる。
いざ、常識から外れたことが起こると逃げることしかできない。
後ろからアリスが追ってきている様子はない。戻ってアリスを助けなければならないと思っているのにハンドルの向きを変えられない。
足が止まらない。身体が言うことを聞かない。
「なんでだよ……!」
信号は赤。なのに、足は止まらない。
無力なぼくは何をすることもできず、横からやってくる鉄の塊を前に、逃げることができなかった。
暗転。




