ウォシュレット、帰省
その頃、春都では……
ウォシュレットは、城下町を縦断する、城の正面門へと続くレンガの道路を歩いていた。服装は今風のものではなく、兵士団長の装いだ。
背には剣を背負い、右手で奏唄から借りた車輪付きの旅行カバンを引き、左手で和風の紙袋を持っている。あれ? ワフーだったっけ? まあいいか。
門兵に声をかけ、門を開けてもらう。
天を貫くように聳え立つ城の入り口……は、くぐらず、城の横にある木製の一軒家の扉をノックする。
「ウォシュレットです」
キィーっと扉が開き、中からジャージ姿の金髪のおっちゃんが出てきた。見た目は、魔法によってかなり若く見せている。
「あ、おかえりウォシュレット」
「ただいまです、ファーズ王」
このおっちゃんがアリスの父、国王である。
──え? なんで国王がこんな一軒家にいるのかって?
そりゃあ、この人も恐妻家だからね……。いろいろ苦労してるんだよ、きっと。
ウォシュレットは土産のヨウカンを国王に渡す。
「ん……? なにこれ?」
「あぁ、それはですね。イモヨウカンなる食べ物です。優しい甘さですよ」
「あー、これがイモヨウカンか。初耳だけど」
「ヨウカンにはお茶です。緑茶です」
「おーけー。そこのへんに座ってなさい」
少し変わった形のポットに水を汲み、円形のスタンドに置いてスイッチを押す。沸いたら「カチッ」と音が鳴るやつだ。
「ああそうだ、あいつ見た?」
「あいつ……?」
「俺の息子だよ。意味深じゃないほうな」
「ああ、王子ですか。見てませんね……」
「そうかぁ……」
そう。国王のご長男、アリス姫の兄にあたる王子は二年も前に城を出た。アリス姫とは違い、許可のない本物の家出。
「あいつも多分、向こうの世界にいる」
「本当ですか!?」
「うん。地球の上の日本という島国は、少し……いや、かなり特殊だからね。よくも悪くも、核になりうる」
「では、もうすぐ……?」
「ああ……」
──もうすぐ、地球は終焉を迎える。




