本物の姫……のような。
「姫、きっと気に入ってくれますよ」
「そうか……? ならいいんだけどな」
ぼくがあるものを購入するためにレジで支払いをしていたとき、店内が大きくざわついた。
主に聞こえるのは『お姫様みたい』という最上級の褒め言葉だ。
客が取り囲む輪の中心にいるのはもちろん、試着を終えて出てきたばかりのアリスである。
「さすが姫! 何を着ても似合いますな!」
「ウォシュレットもいたのね。ありがとう。
その……奏唄? どうかな……」
なんだろう、周りにお花畑が見える……!
ということはないが、可愛らしく、美しかった。
やはりお姫様は着るべきものを着たほうが映える。
「ほんと、よく似合ってる」
照れと照れが入り混じったような表情……って、ただの照れだな。そんな表情をしている。
「じゃあ、これにする……!」
「しゃーなし、ぼくが買ってあげるよ」
「え!? でも……」
「初デートのプレゼント。それでいいでしょ?」
「デートじゃないもん! デートじゃないけど……」
──ありがと。
「ありがとうございましたー!」
という店員の声を背に、ぼくたち三人は店を出た。
アリスはぼくが選んだ服を着て、軽い足取りで歩いている。とてもご機嫌だ。
「とりあえず、目的は達成したね」
「うん♪」
「私は何か食品を仕入れたいのですが。この世界……いや、この国の食べ物を食べたいです」
「じゃあ、ここは三階だから、二つ下りて一階の食料品売り場に行こうか」
「一階ですね!」
目を輝かせるウォシュレット。アリスの可愛らしい足取りとは違い、こちらは全力でスキップをしていらっしゃる。
すれ違う人々は皆「なにこいつ、きもっ」みたいな視線を向けているが、ウォシュレットは気にせずにエスカレーターを下りて行った。
「きもいな」
「きもいわね」
「「ぷっ」」
二人で、吹き出して笑った。




