勘違いの天才
「あれ? 織宮?」
「お、おう……」
色素の薄い、肩までの茶髪を揺らして振り向いた彼女の名は琴結 知砂。
幼稚園、小学校、中学校と同じで、家も近所にある。四角く言えば幼馴染。平たく言っても幼馴染である。
アリスと出会ったのは昨日のことなので、学校の連中が知っているわけがない。そんなアリスと近所で二人で買い物をするのはリスクがありすぎると判断したからこそ遠出したんだけど……
偶然に偶然が重なってしまったのだね。
これは備考だけど、この店には身につけるものが一式揃っている。
ぼくには必要ないものばかりなんだけど、目の前の彼女には必要があるものですよね。
せめてこれが喫茶店でバッタリ出くわしたとかだったらよかったのに、神様はいじわるだ。
知砂も近所で選ぶのには気が引けたのだろう。
彼女の手には、下着が握られていた。
「お……おしゃれですね、それ」
今考えれば他に言い方があっただろうに。まったく、ぼくは思考まで不器用だな。
案の定、知砂は耳まで茹で上がったように紅くなり、あわあわし始めた。
「あの、えと、その……」
まぁ、お泊まりもしたことあるし、きょうだいみたいなものだと知砂も思ってるだろうから、怒りの反応はほぼ無い。ただ、知砂も年頃の女の子。照れは凄まじい。
「うぅ……」
泣いてもーた。
まて、まずい。この状況はまずすぎる。
何か打開する方法は……
「奏唄様ー? そちらのお嬢さんは?」
「ウォシュレット!? なんかおしゃれになってるし!」
淡い紫のパーカーにダメージジーンズ。今までとは打って変わり、今風のイケメンになっていた。
「……? ……?」
知砂は『誰? 誰?』みたいな感じの反応を見せたが、次の瞬間、怖い顔になった。
「奏唄と男の人……女の人の服屋……」
まさか……! みたいに目を見開いて……
「ホモ!?」
「「違うわっ!」」
「いや、私は別に大丈夫ですが……//」
「キモいわ近寄るな」
「奏唄様があまりにもトゲトゲしいので、違う方向に目覚めてしまいそうです」
それは危険だ。優しくするように心掛けよう。
「知砂、買い物中悪かったな」
「いや大丈夫だよ。そっちの人に、いい服選んであげてね。じゃあまた」
知砂は小走りで店を出て行ってしまった。
「すごいなぁウォシュレット」
「はい? 何がでしょうか?」
「自分も勘違いが激しいだけじゃなく、相手を勘違いさせることもできるんだね」
──ほんと、タチの悪いスキルをお持ちだ。




