こんなところで……
結論から言うと、あまり変化はなかった。
ウォシュレットが言うには、
『あなたの身体は確かに魔力を取り戻しました。ですが、今はここまでにしておきましょう』
だ、そうだ。
唯一の変化はと言うとだな……
「奏唄ぁ、大丈夫? ほんとに大丈夫?」
どうしたことか、アリスがぼくにべったりになった。ぼくの腕に腕を絡めて離してくれない。アニメなら『胸が当たって……』みたいな〝実は嬉しい〟ハプニングもあるのだろうが、残念なことにアリスはそのへん貧しいので。
「大丈夫大丈夫。よゆーだってば」
ちなみにアリスがくっついているのは右側なのだが、不意に左側にも重みを感じた。嫌な予感しかしない。
「奏唄様ぁ、大丈夫? ほんとに大丈夫?」
「アリス、一瞬ごめん……ふんっ!」
「ごはっ……」
遠慮なく鳩尾を突かせていただきました。
歩いているうちにショッピングモール内、女の子が着るような服の店が多いエリアに到着した。
「じゃあ、好きな店行っていいよ」
「ふぉぉ……!」
まるで宝石でも眺めているかのように瞳を輝かせるアリス。やっぱり女の子であるな。
興奮して尻尾で床をびったんびったん叩いてはるけど。
「尻尾出てるぞ」
「はっ、やばっ!
どんな服選べばいいかわかんないよー!」
「大丈夫。ぼくもついて行くから」
「じゃあ……あそこにする……」
「ん、じゃあ行こう」
アリスがためらいつつも指を差したのは、店頭のショーケースに白いコートが展示された、どちらかと言えば大人っぽい服が多い店だ。
なぜ知っているかって? そりゃあ、姉貴に散々付き合わされたからね。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったけど。
服を選んであげる場合の極意、その一。
「アリスー? こんなのどう?」
まずは自分の好みで選んで、相手に着せてみ
る。これで少しずつアリスの好みを理解して行くのさ!
なぜ知っているかって? そりゃあ……以下同文。
ぼくが手渡したのは、白のブラウスに、淡い水色のフレアスカート。ちょっと、お姫様っぽいイメージも混ぜて選んでみました。
「…………!」
すぐ表情に出るな、こいつ。ぼくの手元から奪ってすぐに試着室に行くあたり、お気に召したようだ。
……こういうときって、試着室のそばまで行ってもいいものなのかな? 別にいいか。
「っと……、すいません」
スマホを触りながら(アリスから取り返した)試着室に向かっていると、誰かと肩がぶつかった。
「あれ? 織宮?」
「お、おう……」
よく見知った顔に、出会ってしまった。




