第09話 鬼だって泣いてます(季節ネタ)
「寒いです…………唐突に冬ですね」
「……考えてみりゃ、前回まで季節描写皆無だったからな」
いきなりのメタ発言はさておき、いつも通りのオフィス。
窓の外では静かに雪が降り積もる。
「それはそうとして、ガイアさん、節分ですよ!」
「そうだな」
ガイアとテレサは今日も暇である。
「ヒーローが豆で巨悪を討つ日です」
「……自らそんな逆境に立つヒーローいねぇよ」
いくらなんでも武器が心許なすぎる。
ちょっとばかり認識が間違っている様だ。
「いいか、節分ってのは、『季節の変わり目には悪い鬼が生まれる』っていう伝承から来てるんだよ。その鬼を追っ払うために豆を撒くんだ」
「この国でそんな伝承聞いた事ないです」
「……こことは違うどっかの国の伝承だよ。その辺は気にすんな」
「っていうか、何で豆なんですか?」
「そりゃあ……」
………………。
何でだろうか。
まぁ確かにたかが豆と言えど、投げつけられるとかなり痛い。
しかし、普通に攻撃手段とするなら、石だの鉄球だのを投げた方が効くだろう。
そこで豆をチョイスする必要性があるとすれば……
「無難に考えりゃ、鬼が苦手なもん、じゃねぇの」
「鬼は豆が……」
少し考え、テレサはスっと胸に手を当てる。
「同志ですね」
「ちょっと親近感湧いてんじゃねぇよ」
「共通の敵を持つ者は、味方…すなわち同志です!」
「……豆と敵対するダークヒーローってどうなんだ」
付き合ってられねぇ、とガイアはノートPCを開く。
本日分の依頼メール確認だ。
まぁいつも通りファンレターと迷惑メールしか来ていな……
「お」
「どうしたんですか?」
「依頼のメールだ」
何と、件名に『お仕事の依頼』と銘打たれたメールが1通、確かに届いていた。
「で、これなんですか」
「鬼の着ぐるみ、だな」
オフィスからそう遠くない場所にある教会。
その教会に併設された孤児院。
ちょっとブカブカな鬼の着ぐるみを着たテレサ。
普段と何も変わらないガイア。
「ありがとうございます、魔地悪威絶商会のお二方」
渋みのあるゆったりとした声でそんな事を言う初老の男性。
この院の院長さんだ。
プルプルと震える手で杖を付き、腰には大層なギプス。
「例年はワシが鬼役を務めるんじゃが……この有様でのう」
「は、はぁ」
今日はこの院で豆まき大会とやらをするらしい。
「他の職員は皆忙しいし…いやぁ、便利屋さんがあって本当に助かった」
「っていうか、何で私が…ここはガイアさんが男らしく引き受けるべきですよね?」
「俺は子供受けがあんま良くないからな。お前なら、子供に好かれやすいだろうし、向いてるかと思ってよ」
「そうですか?」
「ああ。同じガキ同士シンパシーが合うだろ」
「何でいつもいつも子供扱いするんですか!?」
正直面倒なだけだが、まぁ心の片隅くらいでは今言った通り、テレサの方が適任だと思っての判断だ。
「では、早速豆まきの方に…さ、室内運動場で子供達が待っています」
「とにかくお仕事ですから、気合入れていきます! 見ててくださいガイアさん! 私の壮絶な散り様を!」
豆まき如きで大げさだ。
と、思っていたのだが……
「きゃーっ!?」
総勢12名。
内10歳以下4名、10歳以上6名、15歳以上2名。
それらから一斉に浴びせられる豆の弾幕は、傍から見ていても凄まじい。
特に年長者が容赦無い。
「ほっほっほ。あのヤケに本格的なトルネードスローの子がいるでしょう、彼、野球のジュニア大会で世界まで行った豪腕なんですよ」
「通りで……」
件の子の放つ豆の散弾が命中する度、テレサから一際大きな悲鳴が溢れる。
「いだだだだだ!? もう無理です!」
窓を開け、逃走するテレサ。
容赦無く子供達が追う。
「ひぃっ!?」
「鬼は外ーっ!」
「もう出てますよ!?」
「福は内! 福が来るまで止めないぞ!」
「福の方は私の管轄外ですよ! ガイアさん助けてーっ!! っうきゅ!?」
ボフっと雪の中にぶっ転んだテレサ。
すかさず集る子供達。
「鬼がこけたぞー!」
「埋めろ埋めろ! 雪で埋めろ!」
「そして春には綺麗な花を咲かせるんだ!」
「うぴゃあああ!? ひ、肥料にされるーっ!?」
子供の発想って中々恐い物がある。
それはそうとして流石にもう助けるべきだろう。
「…………」
ガイアと院長に救助されたテレサは身も心もボロボロだった。
「……私…というか、鬼さん可哀想です」
「……ああ、どっちが鬼かわかんねぇなあれ」
元々、冷静に考えてみると、いくら相手が鬼とは言え、豆をぶつけて寒空の下に追い出すというのは結構鬼畜の所業な気もする。
怪物を殺す時、人は人ではいられないと言うが、こういう事なのかも知れない。




