R14,忍者の花嫁(強制)③
パーティが終了し、来賓はほとんど帰ってしまった。
ほとんど、と言うより、会場の片付け・清掃を行っている衛兵やメイド達を除けば、ガイア達しか残っていない。
結局、ガイアとチャールズは話している途中でパーティ開始の時間となり、「続きはパーティの後で!」と言い残して、チャールズは慌ただしく去っていった。
そう言われてしまっては、パーティが終わったからさぁ帰ろうと言う訳にもいかない訳だ。
ガイアはチビチビと麦茶を飲みながらチャールズの帰還を待っていた。
「サーカス、すごかった!」
「ああ、あれはすごかったな」
アシリアが言及しているのは、パーティの盛り上げ役として招待された雑技団の事だ。
テレビのCMとかで名前はよく聞くけど実際に見に行く機会はあんまりない超有名雑技団……まぁわかりやすく言えばシ○ク・ドゥ・ソレ○ユ的な方々。
「そういや……なぁテレサ、シラユキは来なかったのか?」
別にガイアはシラユキと親しい訳ではないが、あの事件以来の様子が少しだけ気になっていた。
隣国の貴族もいたみたいだし、軽く探してみたのだが……
「シラユキちゃんはですね、何やら修行中だそうで今は会えないと言っていました」
「修行中って、なんのだよ?」
「私のために完璧な肉体を作ってみせると言ってましたが……」
「へぇ」
「うーん……私が結婚を断ったのは体型の問題とかじゃないんですけどねぇ……」
「ま、良いじゃねぇか。少なくとも正攻法でやろうとしてんだ」
もう歪んだ手に頼る様な真似はしていない。
それがわかれば充分だ。
「あ、チャールズ兄様が戻ってきた」
「待たせてしまって申し訳ない」
戻ってきて早々、チャールズは深く頭を下げた。
本当にあんたはあのテケテケの弟でこの阿呆の兄なのか、とガイアが疑問視するくらいいちいち礼儀正しい。
「さぁ、ガイアさん。確か『料理できる男はモテると言うのは都市伝説だ』と言う話の途中だったね。再開しよう」
「よく3時間前の雑談を一瞬で思い出せるな……」
「その噂を元に料理教室に通おうか考えていた僕には非常にタイムリー、興味深い話題だったからね」
1つの事にやたら熱心になるその姿勢は兄や妹さんと通じるモノがある。
「チャールズ様、ここで立ち話も難です」
そう静かに提案したのは、チャールズに付き添って来たメイドさん。
無表情系メイド長、シノである。
ガイアもテレサから話だけは聞いた事がある。
「もうパーティは終わっているのですし、別室にご案内しても問題無いでしょう」
「そうだね、時間は大丈夫ですか? ガイアさん」
「はぁ、まぁ」
ちょっと面倒臭いとも思ったが……
チャールズがシンデレラの件をしばらく引きずりメランコリックをこじらせていたと言う話はガイアも聞いている。
デレラをチャールズに差し向けた犯人としては、ちょっと負い目を感じている訳だ。
「飲み物と、軽食も用意しましょうか?」
「そうだね。何か希望はありますか?」
「アシリア、甘いのが良い!」
「あ、私ももっとデザートが食べたいと思ってた所です!」
「お前、ちょっと前に脂肪肝がどーのと騒いでたくせに……」
「甘いモノは別肝です!」
どうしよう、初耳にも程がある。
「では、ケーキを用意しましょう」
「そうか、では私も同行しよう」
突然割り込んで来たのは、大量の料理が乗った大皿を持った青髪の女性。
騎士団の副団長、エキドナだ。皿に盛られているのは残りモノの掻き集めだろう。
「ご馳走を我慢して警備に徹していたが、2分前に本日の勤務時間を満了した。ここからは私のターンだ。私もケーキが食いたい」
どうやら、デザートは余り残っていなかった様である。
「相変わらずマイペースですね、エキドナさん……」
「そうである事に不都合を感じないからな」
表情には出さないが半分呆れた様なシノの言葉に、エキドナは平然と返す。
「まぁ、良いじゃないか。警備ご苦労様、副団長。一緒に行こうか」
「うむ、話がわかるな第3王子」
グリルチキンを頬張りながら、エキドナが笑う。
そんなほのぼのしたやり取りを、半ば悲鳴染みた衛兵の声が引き裂いた。
「た、大変です! 賊です! 賊が、門を破って敷地内へと侵入しました!」
「賊……!?」
大広間内が騒然となる。
「城門の警備は?」
解れていたエキドナの表情が、騎士としての表情に戻っていた。
「死者は出ていませんが……全員、完膚なきまでに……!」
「賊の人数は?」
「ひ、1人です!」
「1人だと?」
たった1人で王城に乗り込んで来るなど、阿呆の所業だ。
普通、門兵達に袋叩きにされる。
しかし、その賊は既に門を突破したと言う。
明らかに只者ではない。
「各員、片付けは一時中断だ! 緊急警戒!」
エキドナはテーブルに大皿を置き、大広間内で清掃作業に従事していた衛兵達の指揮を執る。
「城内にいる兵士・騎士、全戦力を集めろ。賊の迎撃隊の他に第3王子と姫の護衛隊も編成する。わざわざ城に侵入してきたと言う事は、賊の目的は王族だろう」
「いえ、それが……」
「何だ?」
「賊は……どうやらメイド長を狙っている様です」
「……私ですか?」
何故に、とシノが口にする前に、大広間の扉が大きな破壊音と共に砕け散った。
「この所業の理由を問われた気がするので答えよう」
よく通る覇気のある声が、大広間内に響き渡る。
ドアの破片を踏み砕き、その男は堂々と叫んだ。
「この城のメイド長を、俺の嫁にするためだ!」
忍者装束に身を包んだ、長身の青年。その手にはバラの花束。
弾けんばかりのスマイルで、彼は叫び続ける。
「大事な事なのでもう1度言う! 俺はこの城のメイド長を嫁にするために迎えに来た!」
そして、
「おお! 早速見つけたぞメイド長! やはり運命だな!」
「し、シノ……? 色々とツッコミ所があるんだけど……とりあえず、知り合い?」
「知り合いと言うか……以前、1度だけ街角で会っただけの人物です。端的に説明するなら、胡散臭い占いを信じていきなり私に求婚してきた変な奴です」
「大分変な奴だな……」
ガイアのコメントに、その場にいた全員が同意する。
「じゃあ、あの人はシノさんの返事を聞きに来た、って事ですか?」
「いえ、返答は済ませてあります。当然NOで」
そりゃあ初対面でいきなり求婚されてYESと回答できる奴はいないだろう。
「確かにあの時は断られた! だがこれを見てくれ!」
そう言って、忍者青年はその手に持っていた花束を掲げる。
「この花束はもちろん、指輪と、そして新居も用意してきた! これならば断られるまい! さぁ、俺と結婚してくれ!」
「お断りします」
余計な言葉は一切ない、実にシンプルなシノの返答。
「何故だ!?」
「その返答に対し、そのお言葉を丸々綺麗にお返しいたします」
「意味がわからんぞ!」
「ならもうお手上げです。エキドナさん、やっちゃってください」
「うむ、全兵、賊を囲め!」
エキドナの指揮に従い、衛兵達が剣や小銃、非常用に壁に仕込まれていた電撃サスマタや棍棒等を構えて忍者を包囲する。
「ぬぅ、何故だ……予定と全然違う展開だ!」
「あの忍者、大分阿呆だぞ」
「見ればわかります」
シノは無表情のまま、溜息。
しかし、ここでふとシノは気になる事が。
「と言うか……何故、あの忍者は私の居場所と、私の役職を……?」
シノは自身の情報を何1つとしてあの忍者には与えていなかったはずだ。
「夢に見たからだ!」
堂々と、忍者が答える。
「真の忍者ならば、想い人の個人情報を夢に見る事など容易い事!」
「真の忍者……?」
「その通り、俺は『トゥルー忍者』の末裔、カゲロウだ!」
「ねぇガイア、とぅるー忍者って何?」
「俺に聞くなよ……」
デビル忍者なら聞いた事あるが、トゥルーと言うのは初耳だ。
「何忍者でも関係ない。要するにあれは忍者を名乗る賊と言う事だろう」
シンプルにまとめ、エキドナが声を張り上げる。
「取り押さえろ!」
「ぬぅ! 俺はプロポーズしに来ただけだと言うのに!」
「ならば何故退かん? 断られただろうが!」
「悪いが、俺には切迫した事情がある。次の巡り合いを待つ猶予も余裕も無い。NOと言うのなら、無理矢理にでもYESと言わせるまでだ」
要するに、メイド長を拉致るなりなんなり、とにかく強行手段に出るつもりの様だ。
「下郎が。畳んでしまえ!」
「ぬぅぅ……やると言うのならば仕方無い、トゥルー忍者としてお相手しよう!」
そう宣言し、何故か、カゲロウと名乗った忍者青年はガバっと胸を広げて仁王立ち。
「どこからでも来るが良い! 真の忍者ならば、相手の初撃はまず受けるべし!」
プロレスラーかよ、とガイアが突っ込む前に、兵士達が攻撃を開始した。
だが、
「真の忍者に、斬撃は効かぬ!」
兵士達の剣がカゲロウを斬りつける。
しかし、皮膚を穿つ事はできなかった。
ガィンッ! とまるで岩石でも斬りつけたかの様な鈍い音が響いただけ。
中にはへし折れてしまう剣もあった。
「真の忍者は、反撃を怠らぬ!」
カゲロウは攻撃を終え驚愕する兵士達を次々に張り手や蹴りで吹き飛ばしていく。
「真の忍者に、電撃は効かぬ!」
続いた電撃サスマタによる攻撃も、まるで効果無し。
迸る蒼白の雷撃を意に介する事なく、的確に反撃を叩き込んでいく。
「真の忍者に、銃撃は効かぬ!」
銃撃隊も剣とサスマタの兵士同様、カゲロウに傷ひとつ付けられずに紙くずの如く吹き飛ばされてしまう。
「な、何だあいつ……!?」
本当に人間か、アレ。
「何だとは何だ! トゥルー忍者だと言っただろう!」
それが何なのかが理解できていないと言う事を理解してくれ、とガイアは思う。
「くっ、アレは阿呆だが、相当できる様だぞ……!」
舌打ちし、エキドナが臨戦態勢を取る。
気付いてみれば、最早立っている兵士はほとんど残っていない。
「全力でやる!」
エキドナの全身を、蒼炎が包みこむ。
その蒼い繭が弾けると同時、全長5メートルを悠に越える蒼い鱗のドラゴンが顕現した。
エキドナの本来の姿である。
「ヴォォォォォォォォォォッ!」
咆哮、そして、蒼炎を纏った巨大な爪を振り下ろす。
馬鹿っ広い大広間を、エキドナの炎が埋め尽くす。
「わわわ!? ガイアさん! 炎が!」
「落ち着け、大丈夫だ」
エキドナは、悪竜の王の側近をやっていたと言っていた。
つまり、ドラゴンの中でもその実力は上位。
上位のドラゴンならば、これだけ大規模な魔法攻撃でもきちんと攻撃対象の分別ができるはずだ。
証拠に、誰1人として蒼炎によるダメージを負ってはいない。
そう、誰1人として。
「なっ……」
エキドナが、驚愕に目を剥く。
「真の忍者に、炎撃も爪撃も効かぬ」
巨大なドラゴンの爪を、カゲロウは片手で掴み止めていた。
「何故、真の忍者が相手の初撃を受けるか……教えてやろう」
エキドナの爪を払い退け、カゲロウは軽く大地を蹴った。
とんっ、と静かな音が響く程度の、軽い跳躍。
それだけで、その長身は高さ5メートル強、エキドナの眼前へと舞い上がる。
「生物としての実力差を、相手に知らしめるためだ」
ただの、デコピン。
それだけで、エキドナの巨体が勢いよく仰け反り返った。
そのまま、いくつものテーブルを下敷きに、蒼い巨体が地に堕ちる。
「大事な事なのでもう1度名乗らせてもらう。俺の名はカゲロウ」
戦慄し、言葉を失ったガイア達へ向け、カゲロウは実に爽やかなスマイルを浮かべた。
「最強の忍者民族、『トゥルー忍者』の末裔だ」




