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R05,フック船長と(魔法の)パン③

「俺達が後押ししてどうすんだよ……!」

「ご、ごめんなさい、慌て過ぎて……」


 テレサの操縦ミスにより、ガイア達はもう少しで自殺幇助の罪を犯す所だった。


 女性を跳ね飛ばした瞬間、ガイアとコウメも後を追う形で海に飛び込んで救助したのでどうにか事無きを得たが。


「な、なんだってのよ……」


 砂浜に引き上げられた女性。

 キリッとした男勝り感溢れる顔立ちで、女性らしさを損なわない程度に程よく引き締まった強かそうな健康体。

 上半身は紅蓮の炎がプリントされたスポーツブラを着用しており、その上から真っ赤なコートを羽織っている。

 腰にはサッシュベルトを巻き、パンクな破れ方をしている半丈のジーパン、そして古びたブーツを履いていた。

 包帯を巻いた手に持っているのは、ガイア達に追突された際に落としたらしい派手な三角帽。


「………………」


 その「珍妙だがどこか格好いい」と思える服装は、「明らかに海賊アレでは無いか」とガイアは思う。


「あの、本当にごめんなさい!」

「ああ、まぁイイよ、結構キいたけど、大事なかったし……」

「そ、それとですね! 手伝ってしまう形になっといてアレですが、自殺は駄目ですよう!」

「アシリアもそう思う。死んだらご飯食べれない」

「わ、私も……うぅ……私何かに言われなくてもわかりますよね、調子に乗ってごめんなさい……」

「……自殺ぅ?」


 女性の頭上に?が浮かぶ。

 何の話だ、そう言いた気な表情。


「だって、どう見ても……」

「……ああ、成程ねぇ。確かに、あんな所で黄昏てたらそうも見えるか……」


 女性は自分のさっきまでの状況を客観的に整理し、何かに納得した様子。


「勘違いだよ。アタシは別に自殺志願者じゃないさ。それに自殺すんなら自分で腹をカッ捌くくらいの気概は見せる」

「じゃあ、何であんな所に……」


 何かさらっととんでもない発言が聞こえた気がするが、ガイアはひとまずそこには触れないでおく。


「癖みたいなモンさ。悩んでる時は、高い所から海を眺める。大抵の事は……それでどうにかなるんだけどねぇ……」


 女性の言い様からして、どうやらそれではどうにもならない悩みを抱えている様だとガイアは察した。


 普段なら、ガイアはここで「何かあったのか?」と問いかける所ではあるが……

 この女性の外見から思い当たる職業的に、それを聞く事を躊躇ってしまう。


「何か悩んでるの?」


 そんなガイアの葛藤お構いなしに、アシリアが問う。


「まぁね……だが、まぁこりゃあアタシ達の……いや、アタシの問題さ」


 女性はゆっくりと立ち上がり、その手の三角帽を軽やかな動作で自分の頭に乗せた。


「ましてや、アタシは『海賊』……一般人カタギを巻き込むべきじゃない」

「海賊……やっぱりか」


 見た目からして明らかだった。


「海賊さんだったんですか!?」

「かいぞくって?」

「まぁ……簡単に言うと海の荒くれ者、って所か」

「そうだね。一般認識だとアタシらはそう言う感じさ」


 コウメは元々は海で暮らしていただけに、海賊への畏怖が強いのだろう。

 最早何を言うまでも無くガイアの陰に隠れてしまった。


「でも、安心しておくれよ。海賊って言っても、そこらのチンピラ海賊とは違うさ。傍から見ちゃ同じだろうけど」

「チンピラとは、違う?」

一般人カタギは絶対襲わない。獲物にすんのは悪質な同業者か悪徳野郎の趣味の悪い成金船。それがアタシらの団の最大の掟だ」

「成程な……海賊は海賊でも、ポリシーはある、筋は通った海賊って訳か」

「その通り。その辺をわかっといてくれると、嬉しいねぇ」

「筋が通った海賊……筋を通す悪……」


 はっ、とテレサが何かに気付いた。


「まさか……ダークヒーローですか!?」

「はぁ? いや、まぁ確かに悪党を相手取っちゃいるが……流石にヒーローって柄じゃあ無いよ」

「だって、世間一般からは悪者として見られてるけど、実態としては自分達の正義に則って、悪い人達を叩きのめしてるだけなんですよね!?」

「まぁ、そうだけど……」


 今のテレサの解釈は特に間違ってないし、その解釈通りならばこの人の海賊団はダークヒーローと本質的に近いモノだ。


「って言っても、一応相手を選んでるだけで、やってる事は略奪だし……」

「でも、ダークヒーロー感がすごいです! はぁぁあぁぁ……良いなぁ……!」

「そ、そんなキラキラした目で見られたのは初めてだよ……」


 そりゃあ実態はどうあれ海賊さんだし、正面切って憧れの眼差しを向けられる機会なんてそうは無いだろう。


 テレサの純粋な憧れの視線に、どう対処していいかわからない様子だ。


「私、魔地悪威絶商会のテレサです!」

「は、はぁ……アタシはヴァルバロス海賊団団長、アルビダス・フックだよ」

「はい! よろしくお願いします! 是非とも!」


 ぐわしぃ! とテレサは力強くアルビダスと名乗った女性の手を取った。


「是非って……」


 アルビダスは困惑した様子でガイア達に視線を送る。

 その視線は「アタシはこのチビっ子をどうよろしく扱えばいいのさ?」と助けを求めている。


「実はなフックさん。そいつ、ダークヒーローに憧れてて……」

「ああ、だからさっきからやたらとダークヒーロー云々と……」

「はい! なので教えてください! どうすればアルビダスさんみたいになれますか!?」

「海賊になりたいの? ……普通に生きていけるんなら、やめといた方が良いと思うけど……」

「じゃあ海賊にならずにアルビダスさんみたいになれる方法を!」

「え、海賊って最早アタシのアイデンティティの根幹だと思うんだけど……」

「でも、海賊になる事はアルビダスさん的にはオススメじゃないんですよね?」

「まぁ、危ないし、世間様の評価的に、他人に勧める様な職業とは思わないねぇ」

「じゃあ、やっぱり海賊にならずにアルビダスさんみたいになる方ほ…」

「初対面の人を無茶ぶりで困らせるな」

「あいたぁっ!?」


 アルビダスが本気で困り始めているのを見かねて、ガイアがテレサの脳天に軽くチョップを叩き込む。


「すみません、ウチのアホがアホな事言って」

「うぅ……ガイアさん、加減は大事だっていつも言ってるじゃないですかぁ……」

「いいから謝れ」

「まぁ、良いって事さ。子供は大人を振り回すくらい元気なのが丁度良い」


 アルビダスはテレサに困惑こそしたモノの、怒ってはいないらしい。

 軽く笑って許してくれた。


「子供って……私もうすぐ16歳ですよう……」

「あ、そうなのかい? てっきり10歳くらいかと……」

「10歳!?」


 まぁそう見えるわな、ガイアはうなづく。


「ねぇガイア、この人は悪い人じゃないんだよね?」

「ん? ああ、まぁ、話を聞いた感じと人柄的に、そうだろうな」

「何も知らないくせに恐がってしまってごめんなさい……」

「良いよ良いよ。海賊稼業は長くやってるから、恐がられるのにも慣れてる」

「悪い人じゃないなら、アシリア達が手助けしてあげてもよくない?」


 手助け……と言うと、先程アルビダスが「一般人カタギを巻き込むべきじゃない」と口を閉ざした「悩み事」についてか。


「気持ちはありがたいけど、大丈夫だよ、獣人のお嬢ちゃん」

「でも、アシリア達、便利屋だよ? 困ってる人達を手伝うのが仕事なんだよね、ガイア」

「便利屋?」

「ああ、まぁ一応……」


 ガイアはスマホを取り出し、ブラウザを起動。

 魔地悪威絶商会のホームページを見せる。


「ああ、さっきそこの嬢ちゃんが言ってたマジワルイゼ商会って……」


 ホームページを見て、アルビダスは驚いた様な表情を見せた。

 多分、テレサの外見的な問題で「空想上ママゴトの会社かな?」とでも勘違いしていたのだろう。


「……『指をパチンと魔法で解決いたします』……?」


 アルビダスはホームページ上のキャッチコピーに目が止まった。


「ああ、さっきの絨毯とか見ただろ。テレサは魔法が使えるんだ」

「はい!」


 それも指パッチン1つで割とどんな事でもできる便利な魔法を。


「魔法……」

「もしかして、魔法が入用ですか?」

「………………」


 アルビダスは顎に手を当て、考える。


「……本当に、手助けしてもらっても良いのかい?」

「当然です!」

「うん」

「は、はい……って、私の了承なんて使用済みの鼻紙よりも不要なモノですよね、気分を害する様な事をしてごめんなさい」

「まぁ、やれる範囲の事なら」


 アルビダスが普通の海賊なら、関わり合いになるのは御免だったが、事情が変わった。

 多少の協力くらいなら良いだろう、とガイアも賛同する。


「じゃあ、1つ、依頼をしたい」


 アルビダスは真剣な表情で、その依頼内容を端的に説明した。


「『魔法のパン』を手に入れるのを、手伝ってくれないか?」





「やれやれ……何故この俺が……」


 バスの車中、獣の唸り声の様な低い声がつぶやいた。


 声の主の名はタルウィタート。

 熊と並んでも遜色無い、むしろ大抵の熊よりも大きい大男。

 特注サイズのフード付きの半袖パーカーとジャージのズボンで全身を包んでいる。

 フードを深く被っているため頭髪の色は確認できないが、その肌は浅黒く、瞳の色はコバルトブルー。


 彼は体格故に、1人用の席には収まり切らず最後尾の5人座りの長席のど真ん中にデンと腰掛けていた。

 車内には現在彼と運転手しかいないので、特に問題にはなっていない。


 このバスは、国の最端へと向かっている。

 その終点のターミナルの1つ手前にあるヒールフルビーチと言う観光名所の海が、タルウィタートの目的地だ。


「まったく……」


 窓の外を見る。

 ガードレールの向こう側には煌く大海が見えた。


 別にタルウィタートとは海水浴に行くわけでは無い。

 海水浴を楽しむ様な柄では無いし、そもそも今は3月。ちょっとした異常で真夏日になっているとは言え、普通海水浴に行こうなんて思わない。


「雑用は、余り好きでは無いのだがな……まぁ、暇だったから良いが……」


 彼は、『とある組織』に所属している。

 その組織に置ける、『実行部隊』的な役割を担っている訳だが……


 彼は今、本来ならば実行部隊の下っ端がやる様な作業に駆り出されている。


 理由は簡単、ボスの気まぐれだ。


「……『今回の件は、何か妙なモノが絡んでくる直感がする。下っ端だとしくじるかも知れない』……か」


 ボスに言われた言葉を思い返し、タルウィタートは溜息。


「まぁ、アンラの直感はよく当たるからな」


 もう残す停車駅はヒールフルビーチのみ。

 人が乗ってくることは無い。

 運転手もタルウィタートの事は全く気にしていない様子。


 フードがあまり好きじゃない彼は、ちょっとくらい良いだろう、とそのフードを下ろした。


 現れたのは、芝生くらいの長さの緑髪。


「さて……確か標的は……」


 緑の毛並み、褐色の肌、蒼い瞳。

 それは、とある魔族の持つ特徴。


 タルウィタート。

 属種、『悪神族アーリマン』。

 所属組織、『絶対悪の原典たる者達アーリマン・アヴェスターズ』。


「『魔法のパン』……の『創造主』、だったか」


 最悪の存在、そう呼ばれた種族が、獲物を狙って動き出していた。


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