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第03話 ダークヒーロー(遠い目)

 お姫様な魔法使い、テレサが代表を務める『魔地悪威絶まじわるいぜ商会』。


 商会とは言うが特に商売はしていない。

 テレサ的にその辺はどうでもいいらしい。


 この組織の目標は、『悪を以て悪を制すダークヒーロー集団』になる事だそうだ。

 だが、現状芳しくは無い。


「何故でしょう……」


 魔地悪威絶商会本社ビル(雑居)の2階、オフィス。

 成金趣味な黄金のライオンの模造頭とか、甲冑だの剣だのも飾られている。


 そんなオフィス内でも一際目を引くのが、大きな高級デスク。

 ワインレッドなカラーリングの上質なデスクに、『ボス』と刻印された荘厳な造りのプレートがポテンと置かれている。


 そんなデスクにちょこんと構えて、テレサは可愛く首を傾げていた。


 デスク上に並ぶのは、いくつかの新聞記事と、警察からの感謝状。


「活動すればする程、ただのヒーロー扱いに……!」

「良い事じゃねぇか」


 そう言ってガイアは客用のソファーに座ってお茶を呷る。


 新聞記事はどれも一面にテレサの活躍を取り上げている。

 感謝状は、それらの事件解決の度に送られてくる物。


「ダメですよ! 今更悪い事できない雰囲気ですよこれ! 何かファンレターとか着てますもん! ガッカリされるのヤですよ!」


 テレサが取り出した一斗缶の中には大量の手紙。

 テレサを応援するファンメッセージの山である。


「これとか読んでくださいよ! 拙い文字で『おねえちゃんすごい。リカもおねえちゃんみたいに、みんなをたすけるひとになるの』って! 裏切れませんよこんな純粋な子を!」

「じゃあ良い事続けてればイイだろ」

「本末転倒です! ダークヒーローはダークだからこそダークヒーローなんですよ!?」

「でも、意外と悪い気はしてないんだろ?めっちゃ笑顔だし」


 新聞に掲載されているテレサの写真は、いつだってカメラに向かって笑顔のピース。

 それに「一々お返事書くの大変なんですよー」とか何とか言いながら、何だかんだ楽しそうにファンレターの返信を書いてたりする。


「ま、まぁそれはそうですけど…………あ、そうだ!」


 何か思い付きやがった様だ。


「いちいち事件解決する度に取材に応じるからダメなんですよ!」

「ほうほう」

「なので、顔を隠して事件解決! 名乗らずに立ち去ります!」

「……それはただ単に『正体不明のヒーロー』だな」

「うっ」


 ダークヒーローとは言い難い。


 そもそもダークヒーローの定義ってなんだっけ。

 気になったので、ガイアはちょっとスマホで検索してみる事に。


 すると「ダークヒーローの要素まとめ」とやらが出てきた。


「テレサ、ちょっと診断してみるか? 今の所どれくらいダークヒーローか」

「わ、面白そうですね、是非!」


「ヒーローの王道に属さない独自の行動理念を持っている」

「はい! ダークヒーローになりたいです!」


 ……まぁ、確かにヒーローの王道からは程遠い行動理念ではある。


「その理念に確固たる信念を宿している」

「あります! 私とってもダークヒーローしたいです! 月をバックに高笑いとかしたいです!」


 本気で言っているのがよくわかる良い瞳だ。信念はあるのだろう。


「目的のためなら悪逆非道も躊躇しない、敵対者には容赦しない。必要があれば拷問まがいな事も行う」

「い、いくら相手が犯罪者とかでも、そこまでするのは酷くないですかね? だって倒して警察に引き渡せば解決しますよ?」


 ……まぁそうだけども。


「悪役・汚れ役・憎まれ役などになることを恐れず、他者の評価に左右されない」

「出来れば皆からかっこいいって思われたいです」


 …………ダメだこりゃ。


 かなり甘い採点をすれば4つの要素の内、2つは当てはまっていると言えるだろうが、何というか、ダメだこりゃ、とガイアは総評を下す。


「…………」

「どんな感じですか」


 何かワクワクしている所悪いが、期待に胸躍らせる事すらおこがましいと思わないかお姫様よ。

 ガイアは溜息を吐き、「こいつと会ってから、1日あたりの溜息の回数増えたなぁ」と心中つぶやく。


「あ、そうだ」

「どうしたんですか?」

「あれだ、普通のヒーローじゃ裁けない悪を裏で裁く、とか」

「あ、それダークヒーローっぽいです!」


 しかし、ここでガイアも首を傾げる。


「「……ヒーローに裁けない悪……?」」


「……無くないですか?」

「俺もそんな気がする」


 悪い奴をヒーローが裁けないなんて有り得るのか。

 少なくともガイアとテレサが想定し得る限り、無い。


「うーん……裁判で、明らかに有罪なのに、汚い人脈や金で無罪になった人、とか」

「でもその人が本当に無罪だったら、ヤバくないですか?」


 それは確かにかなりヤバイだろう。


 それに何より、その手の輩は法的に裁けない以上、直接ダークヒーローが命を断つ以外断罪方法が無い。

 この少女に、それは無理だろう……とか言いだしたら、そもそも無理な話という事になるが、その通りだから仕方無い。


「……頭痛くなってきた」

「風邪ですか?」


 お前のせいだよこののほほんプリンセス。

 ガイアは少し遠い目で窓の外に視線をやる。


「……もうあれだ。なる様にしかならんよ」

「あれ、ガイアさん? もしかして今匙を投げました? ちょ、待ってくださいよ! 一緒に考えてくださいよ、ダークヒーローとして認められる方法!」


 さっきの診断通りなら他者の評価に左右されないのがダークヒーローの要素の1つらしい。なので「ダークヒーローとして認められよう」という考えの時点でもう不可能である。


 不可能なモンは不可能。以上。


「今日は晩飯何食おうかな……」

「聞いてます? ねぇ! ガイアさーん!?」


 そんな感じで、ダークヒーローに一歩も近づく事無く、今日も1日が終わる。



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