第21話 四天王は大体強い(全てとは言ってない)
常に闇の帳が包む、深い渓谷。
その奥深くの巨大洞窟の中に、2匹のドラゴンがいた。
1匹は毒々しい紫色のドラゴン。
人間の数倍もある体躯の、実にドラゴンらしいドラゴンだ。
もう1匹は桃色のドラゴン。
こちらは人間より少し大きいくらいの、若いドラゴンらしい。
「情けない! 残りの2匹は何やってんのよ!」
喚くのは桃色の小さなドラゴン。
「まぁ騒ぐなよ、ガキか」
落ち着いた口調で小さなドラゴンを制する紫ドラゴン。
「だって、今日は『悪竜四天王』会議だよ!? 集まるのは4匹だけ! なのに2匹が遅刻って!」
「落ち着けって、ジャバ。どーせいつも通りグダグダ喋って終いだろ?」
「何でジルも他の2匹もそんな悠長なの!?」
そう、この2匹は3年前猛威を振るい損ねた悪竜の王の腹心、悪竜四天王。
桃色の若いドラゴンは『摩訶不思議』のジャバウォック。
紫色の落ち着いたドラゴンは『魔導暴風』のジルニトラ。
今日は、悪竜軍再起のための四天王会議、なのだが、この有様である。
「悠長っつぅか、ぶっちゃけ、人間に勝てる気しねぇっつぅか」
「諦めてるの!? それでもドラゴンなの!?」
「見りゃわかんだろ。ドラゴンじゃなきゃ何だよこの見てくれは」
「心意気の話だもん!」
「心意気も何も、ねぇ……」
大層な字名を名乗っちゃいるが、ジルはちょっと強力な魔法をいくつか同時に撃てます程度の能力。
ジャバも、ドラゴンが生来持っている変身擬態能力の自由度が高いというだけ。
他の四天王やドラゴンも、「へぇーすごーい」レベルの能力しか持っていない。
そんなんで、万の徒党を組みアホみたいな超常武装を振りかざす人間供に、勝てるはずがない。
「もういいもん! 私に考えがあるから! 1匹でだってやってやるわ!」
「お前戦闘なんてできないだろ?」
「考えがある、って言ったでしょ?」
ジャバが四天王に数えられるのは、「変幻自在」とも言えるその擬態能力のおかげ。
特別、戦闘に向いている訳では無い。
本人もそれをよくわかっているので、正面から人間と戦おうなんて考えは更々無い。
「まぁ、殺されん程度に頑張れよ」
「今に見てなさい! 私の本気を! 竜世復古までの道程、その第1歩を!」
「ドーテイ?」
「道程って言葉を知らないの? 道のりの事よ」
「ああ、そっちか。あんま難しい言葉使ってると、意外な所で誤解を生むぞ」
「いちいちどうでもいい事に突っ込まないで! 勢いが削がれるのよ!」
翌日の昼、王様の城。
「ふっふっふっふ……」
その調理場にて、怪しげに笑う小さなメイド娘がいた。
明るい桃色の髪に、可愛らしい顔立ち。
ジャバ(人間擬態)である。
他のドラゴンの擬態だと牙やら角やらが残ってしまうが、ジャバは擬態特化のドラゴン。完璧に人間の娘に成りすませている。
(王族を暗殺し、人間の政治を内側からズタズタにして、弱体化させてやるわ!)
という作戦、だったのだが、
「コラ新入り、今忙しい時間なんだから、ちゃっちゃと働きなさい」
「は、はい!」
ジャバはいつの間にか、シノの命令を受けて慌ただしく走り回るメイド達の1人になっていた。
(い、忙しすぎる!? これじゃ、料理に毒を仕込む暇も無いじゃない!)
さっさとこの忙殺状態を乗り越え、次の作戦に移ろう。
「……全く、何で私がこんな雑用を……」
調理作業がひと段落着いたジャバ。
今度はその料理を王子の元へと運ぶ事に。
「まぁある意味好機ね……第3王子チャールズ……手始めに、こいつから」
うふふ、と笑いながら、料理にドラゴン族秘伝の毒薬を混ぜる。
どこぞの名探偵でもペロっと舐めたら最後、「…これは竜の毒…! ぐえー」となってしまう猛毒だ。
(にしてもあのメイドの長、失礼よね。あれだから人間って好きになれないのよ)
料理を運ぶ際、「チャールズ王子の私室は少しばかり遠い上に少々分かりづらい位置にあります。大丈夫ですか? 私が変わりましょうか?」なんて事を言われた。
「この程度の道程で、私程のドラゴンが迷うわけ無いわ」
記憶力には自信がある。
(ほら、着いた)
人間の常識は弁えている。
ちゃんとノックをして、チャールズの返事を待ってからドアを開ける。
「ありがとう、ご苦労様」
ジャバを出迎える優形の青年、チャールズ。
「いえいえ」
(ふふ、呑気にお礼なんて言って……今に「ぐえー」って泡吹いて倒れちゃえばいいのよ)
「あれ、君新人さん? ごめんね、俺の部屋ややこしい所にあって……」
何かとっても物腰の柔らかそうな男だ。
「ふん、ややこしい?この程度の道程で何を…」
「あぁ?誰が『この程度の童貞』だコラァ…!」
「え、何が!?」
何かチャールズの声色と雰囲気が一変した。
ジャバは知らない。
この国の王族は、皆何かしら変な『スイッチ』を持っている事を。
そしてチャールズのスイッチは『独身or童貞呼ばわりする事』だと言う事を。
「ガキの癖して……覚悟できてんだろうなぁぁ!」
「ひ、ひぃ!? その剣は対竜兵装!?」
突然剣を抜いたチャールズに驚き、ジャバは毒入り飯をおぜんごと床にぶちまけてしまう。
もう毒殺云々言ってる場合じゃない。
よくわかんないが、こっちが殺される。
その時、剣を抜いたチャールズの体が一瞬にしてワイヤーで縛りあげられた。
「ぐえっ!?」
「落ち着いてください、チャールズ王子」
「あ、メイドの長!」
目にも止まらぬ動きでチャールズを縛り上げたのは、自称忍的スパイメイド、シノ。
「心配でこっそりつけてみて正解でした。新入り、この人は私が落ち着かせます。あなたは新しい食事を」
「は、はいぃ!」
シノに急かされ、ジャバは急いで脱出。
当然新しい食事なんぞ取りに行く気はない。
もうあんなヒステリック王子に構いたくもない。
「酷い目にあったわ……」
しっかしあの王子はいきなり何にキレたのだろうか、謎だ。
「ん?」
てくてくと廊下を歩いていると、ふと横の部屋から舞い出てきた何かを踏んづけてしまった。
「写真?」
ジャバが踏んづけたのは、1枚の写真。
どことなくアホっぽい女の子が写っている。
「貴様……」
「へ?」
写真が舞い出てきた部屋、正確に言うと、国王の私室。
そのドアから、ヒグマの様な大男が血走った目でこちらを睨みつけていた。
国王、エドワードだ。
「テレサの写真を……万死に値するぞぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
「えぇっ!? うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ジャバは知らない、国王エドワードがドを超えて娘を溺愛しており、そして今自分が踏んづけたのがその娘の写真であるという事を。
「罰を与える! 貴様は幸い体格がテレサに近い! テレサの服を着て今日1日俺になつけ! 頭を撫でさせろ! 猫撫で声で俺に甘え尽くすのだ!」
「ひぃっ!? 大男が子供服を持って追いかけてくる!?」
テレサに飢えすぎて、自分が今とんでもなく変態的になってしまっている事に気づかないエドワード。
「よくわかんないけど助けてぇ!」
「む?」
ジャバがエドワードから逃げていると、廊下である人物に出会した。
ガタイの良い眼鏡男、第1王子ウィリアムだ。
「ああ、もう誰でもいいから助けて!」
「うおっと、子供メイド? 助けてって…」
何から? と思ったが、すぐに疑問は解決した。
「ウィィリアムゥ! その娘をこっちに…」
「何してんだあんたは!」
「はごぉ!?」
実の父とは言え、泣きかけの女の子を追いかけ回す様な行為は見過ごせない。
という訳で全力のラリアットを叩き込む。
「や、やるな…息子よ……この国は任せたぞ……」
「冗談言ってないで、状況を説明してくれ父上。このままだと俺は、実の父を結構不名誉な罪で逮捕する事になる」
助かった、そうジャバが胸を撫で下ろした時、
「その娘が……テレサの写真を、踏んだから、罰を…」
「ああ、それは即殺だな」
「!?」
助かってなかった。
こうして、ジャバの逃走劇は再開された。
渓谷。
「た、ただいま……」
「おう、生きてたかジャバ」
何とかアホ王族の追跡を逃れ、ジャバは生き延びた。
「どうやら予想通り酷い目にあった様だな」
「うん……もう早まった真似はしない……」
人間超恐ぇ、と再認識させられ、この日からジャバは少し大人しくなった。




