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第18話 メニューには無いけれど(気まぐれ)

「ガイア、今日来ないの?」

「はい。バイトなんだそうです」


 夕方のオフィス。

 いつもならガイアが来る時間だが、今日はバイトなので休み。


 こういう日のために、三階にはアシリア用のインスタント食品が用意されている。

 アシリア的にはインスタントはあまり好きでは無いが、我侭を言ってガイアを困らせる訳にも行かないので我慢だ。


「アシリア、カップ麺あんまり好きくない……」


 ガイアを困らせてはいけない。

 わかっていても、子供なので多少の愚痴はこぼれてしまう。


「じゃあ今晩は私と一緒に御飯に行きましょう!」

「大丈夫? テレサ、いつもお家で食べてるんじゃないの?」

「大丈夫ですよ。もう子供じゃないですし、晩御飯を外食するくらいで心配されないです!」


 心配し過ぎて大騒ぎする輩が約2名程いるのだが、テレサはそれを知らない。


「では何を食べに……あ、良い案を思いつきましたよアシリアちゃん!」

「?」


 テレサが言う良い案、それは……






 カラオケハウス『ライジングボイス』。


 カラオケ業界の大手であり、国内シェアはまずまずのNO,4。

 そんなライジングボイス支店の1つ、ガイアのバイト先である王都第2支店。

 そのキッチンフロア。


「今日はドリンクもフードあんまり入んないね」


 つぶやいたのは古参スタッフの1人、サリナ。

 大人しそうな雰囲気の女性だ。


 年齢はシークレットとの事だが、おそらくもう20代というブランドは潰えているだろうと噂だ。


「そうッスね」


 適当に応えながら、ガイアは食器洗浄器から洗いたての食器類を取り出し、布巾で乾拭きする。


「まぁ平日ど真ん中だし、客入り自体が少ないっすからね」

「そうねぇ……暇なのは楽で良いけど、暇過ぎると、何か居心地悪いね」


 自宅でも無いのに手持ち無沙汰で突っ立っていたら、そら居心地も悪いだろう。

 しかし、現に仕事はほとんど片付いてしまっているため、暇になってしまう。


「うーん……あ、かなり早めだけど食材の廃棄チェックしちゃうね。どうせフードそんなに出ないだろうし」


 廃棄チェックはいつも日付が変わる少し前、夜勤の帰り際に行う事になっている。

 まぁサリナの言う通り、ギリギリまで待ったって今日はそうそうフードは入りっこ無いし、構わないだろう。


「ガイアくん、お客様来たらフロントお願いしていい?」

「うっす」


 そんなやり取りをして、サリナはウォークイン式の冷蔵庫の方へと向かっていった。


 食器を全て拭き終え、ガイアは一旦背伸び。

 自分の吐く息の音、ホールの方からうっすら聞こえてくる軽快な音楽。

 それ以外に音は無い。


「あー……静かだ」


 最近、時期的な都合で大学の休講が増えて来たため、相対的にテレサ達と過ごす時間が増えている。

 あいつらといると、毎日が賑やかだ。


 まぁそれはそれで悪くはないのだが、たまには静かなのも良い。


 そんな事を考えていると、ピンポーンという音が響く。

 フロントの呼び出しボタンが押された、つまり、会計か、新規の客が来た。


「っし……あーい、お待たせし…ま、した……」


 キッチンからフロントへと出て行ったガイアが見た物は、


「あ、ガイアさん!」

「制服、新鮮」


 カウンターの前に立つ、よーく見知った見た目子供の2人組。

 テレサとアシリア。


「……遊びに来たとかなら帰れ」

「一応カラオケしに来たんですよ。メインは晩御飯ですけど」


 2人で御飯を食べに行こうと思い立ち、ついでだからガイアの働いてる店に行ってみよう、となったらしい。

 カラオケハウスなら一応フードメニューはある。


「……お前らカラオケなんてする柄か?」

「失礼な! 私の一族は皆歌上手いんですよ! 父様のデビューシングル聞いた事無いんですか?」

「ああ、そういやCDデビューしてたな王様……」


 ファーストシングルで飽きて、以降は出していない様だが。


「アシリアも歌うの好き」

「へぇ」

「里にいた頃は、木の上でオカリナ吹いてる妖精さんの隣でよく歌ってた」

「どっかで聞いた事ある妖精さんだな……」


 まぁ良い。客として来ている以上、追い返すなんて真似はしない。


「とりあえずこの3時間パックって奴でお願いします」

「へいへい」

「お部屋はどこでも良いです」

「そうだな、じゃあ10号室辺りに案内しとくか。お前にぴったりだよ」

「え? 私に? 何があるんですか?」

「キッズルームに1番近い」

「んもぉぉぉう!!」


 本当、いちいち期待通りに大きなリアクションを返してくれる。


「ガイアさん、一応私は今お客様ですよ! 子供扱いは失礼じゃないですか?」

「あーはいはい、アメやるから許せ」


 フロントには子供客用にアメ玉がストックされている。


「全然わかってない!」


 と言いつつも、しっかりアメ玉は受け取るテレサ。


「アシリアもアメ欲しい」

「おう。ほれ、10号室はそこの突き当たり曲がってすぐな」

「うぅ、結局キッズルーム近くなんですか?」


 絶対使いませんから、と言い残し、テレサはアシリアを連れ、部屋へと向かって行った。






「お」


 キッチンに戻ると、各部屋との連絡用インターホンに早速10号室からコールが入った。


「はい、フロントです」


 まぁここはキッチンだが、注文の電話対応のマニュアルにはこう書かれているので仕方無い。


『ガイアさんが取りましたよ! お仕事中のガイアさんと電話って初めてじゃないですか!?』


 そりゃあそうだろう。

 バイト中にスマホなんぞ弄れないのだから。


『アシリアもやりたい』

『はい、どうぞ』

『ガイア、アシリアお腹空いた』

「ならさっさと注文しろ」

『この前ガイアが作ってくれた玉ねぎ入りの卵焼き食べたい』

「……店のメニューにあるものから注文しろ」

『あ、私それ食べた事無いです! 私もその卵焼きが食べたいです!』

『あれシャキシャキしてて美味しかった。また食べたい……ダメ?』

「今度作ってやるから、今はメニューから注文しろ」

『私も食べたいですってば!』

「話を聞けってば!」


 客からオーダーを聞くのってこんなに面倒な事だったっけか。


『姫の特権でどうにかなりませんか?』

「どうにかなるならないは置いといて、こんな所で使うモンじゃねぇって事だけは確かだ」

『えー……じゃあ、仕方無いです。私は手始めにこのディナーパックってのでお願いします』

『美味しそう。アシリアもこれで良い』

「……結局卵は食うのな」


 ディナーパックには、小さいが卵焼きも含まれている。


「まぁいいや、了解。ちょっと待ってろ」


 通話を終了し、早速調理に取り掛かろうとした時、ふと思い出す。

 確か今、サリナが廃棄をチェックしているはずだ。


「…………どうせ卵焼きは作る訳だし……」


 ま、ちょっとした気まぐれという奴だ。

 冷蔵庫に入り、丁度野菜の棚をチェックしていたサリナを発見。


「サリナさん、玉ねぎの廃棄とかって有りますか?」

「玉ねぎ? えーと……入荷の日付は……うん、この半分使われてるの、廃棄でオッケーだよ」


 まだまだ食材としては全然使える。

 しかし、店の規定で廃棄の日程は厳守だ。


「んじゃ、ちょっともらいます」

「え、何に使うの?」

「ちょっとお姫様の我侭に付き合ってやろうかと思って」


 店の規定を破るのは、あまりよろしく無い。

 しかしまぁ、他でもないこの国のお姫様がご所望なのだ。多少の規定違反は仕方無いだろう。


「……本当、手間のかかるガキだよな」


 とりあえず、食事を持っていく際に何かイジろう。

 どういうネタでイジろうか。やはり鉄板は子供扱い系だろう。


 ライスにお子様ランチ用の旗でもぶっ刺すか。


 そんな事を考えながら、ガイアは玉ねぎを刻む。

 本日のディナーパックの卵焼きは、少々玉ねぎが混入する予定だ。



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