表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/160

第16話 僕の鼻がこんなに伸びる訳がない(嘘)《後編》

「ガイアさん! む、虫が! すっごくおっきい虫が!」

「そりゃ森なんだから、モンスターの類くらいいるだろうよ」


 町から少し離れた所にある深い森。

 巨木がうっそうと生い茂り、真昼間だと言うのに、森の内部は少々不気味な薄暗さに包まれている。


「考えてみりゃお前の育ち上、森なんて入る機会ねぇか」

「は、はい、初森です」


 不安なのだろう、しかし子供扱いもされたくないのだろう。

 葛藤の末、テレサはガイアの服の端っこをバレない様に摘んでいる。

 まぁガイアは気付いているが、ガチで怯えている様なので今回は追い打ちをかけないでおく。


 元々野生で生きていたアシリアは平気でズンズンと進み、ピノキオも通い慣れた道の如く足取りに淀みは無い。


「な、何か個性的なお花さんも……」


 テレサが見つけたのは、赤黒い血の塊の様な色をした、巨大なハエトリグサ。


「それ、スープにすると美味しい」

「た、食べれるんですか?」

「うん、でも気を付けないと逆に食べられるって族長言ってた」

「食肉植物の類かよ……」


 見渡すと、それっぽい植物はそこら中にうじゃうじゃと生えている。

 結構危険度高く無いかこの森。


「でも心配いらない。この辺りの植物は大きな動物には、身を守る以外では噛み付かないから」


 こっちが手を出す様な真似をしなきゃ大丈夫、と言う事か。


「そうそう。じゃなきゃ僕もこんなとこ通らないよ」

「つぅかお前、慣れてるっぽいけどどんだけ通ってたんだよ?」

「週5くらいかな」


 ピノキオの鼻は伸びない。


「……そりゃそんなペースでセクハラしてりゃ呪いの1つくらいかけられるわな」

「ち、違うよ!? 僕は精霊さんとただ純粋にお話したくて…」


 ピノキオの鼻がえらい勢いで伸び、食肉植物に直撃。

 身の危険を感じた植物がピノキオの鼻に喰らいつく。


「ぎゃふぉぁああああああ!? 鼻がぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「丁度イイからもう鼻も含めて何もかも溶かされちまえ」

「ひぃご慈悲を! こんな間抜けな死に方嫌! ピノキオ超嫌!」


 ピノキオがガチ泣きし始める。


「……ったく、テレサ、火的なの出せるか?」


 対竜兵装所持検定試験のために、ガイアは地形障害的な物も多少調べた事がある。

 食肉植物は多少なりに知恵があり、火を異常に嫌う。

 テレサの魔法でライターを召喚してもらい、火を近づけて植物を追い払う。


「森の中では不用意に嘘吐くなよ」

「う…はい……僕は週5で言葉、及びスキンシップ等で精霊さんにいセクハラしてました……」


 謝った所で到底許してもらえなそうな事実が、今になって飛び出してきた。


 そもそも精霊が人に危害を加えるなんてかなりレアケースだし、それ相応に理由はあったようだ。


「だってあんな美人なのに初心なんだよ精霊さん……恥ずかしがる表情が、もうやめられない、たまらない」

「お前は見た目ガキなのに卓越したゲス野郎だな……」


 えびせんを食う感覚でセクハラするとか、頭沸いてるんじゃないだろうか。


「あ、湖ですよガイアさん!」

「着いた」

「お、着いた…か……」


 町の広場の噴水程度しかない小さな湖。

 サイズ的には池や沼と表記すべきだろうが、その美しい輝く様な水の質は、言葉のイメージとして池や沼とはミスマッチに思える。


 まぁ、この際そんな事はどうでも良いだろう。


 ガイア達が絶句した理由、それは、湖の前で、老いた男性が倒れていたからだ。


「お、おい! あんた大丈夫か!?」

「う、うぅ……」


 ガイアが抱き起こすと、老人は軽く呻きを上げ、目を開いた。

 良かった、生きている様だ。


「一体こんなところで何を……」

「あ、ゼベットじいちゃん!」

「……は?」


 老人の名を呼んだのは、ピノキオ。


「ピノキオさんの知り合いなんですか?」

「うん、僕のお爺ちゃん」

「はぁ? 何でお前のじいちゃんがこんなとこで倒れてるんだよ?」

「う……ピノキオかい?」


 よろよろと起き上がるゼベット老人。


「鼻が伸びる奇病に悩まされていると言っただろう、ピノキオ。……どうにかしてやりたくてなぁ」

「じいちゃん……」


 良い雰囲気になりかけた瞬間。


 それをブチ壊す様に、ゼベットの鼻が、すごい勢いで伸びた。


「おじいちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!? 嘘なの!? 今の嘘なの!?」

「つぅか何であんたまでその呪い喰らってんだよ!?」

「い、いや、これはだね……その、精霊さんと揉めてね。理不尽にもこんな…」


 鼻の伸びが加速する。


「い、いや、本当に、ワシはピノキオのために…」


 さらに伸びる。


「決してやましい事など一切考えて…」


 まだまだ伸びる。


「信じておくれピノ…ぐぇええ……鼻が重いぃぃ……」

「そりゃそうだよ! 雲まで届くくらい伸びちゃってるモン!」

「中々本当の事言わない分、孫よりタチ悪いなこのじいさん……」


 まぁ大体察しは付くが、一応本当の事を言ってもらおう。


「ぴ、ピノキオが、美人で初心な精霊がいるといっていたから…ワシの中の野生に火が……」


 少しだけゼベット鼻が縮む。


「……ロクでもねぇ一族だなお前ら」

「本当ですわ!」


 突然、聞きなれない女性の声が乱入してきた。


「あ、精霊さんのお出ましですよガイアさん!」

「みたいだな」


 何かどっかのガ○バスターみたいな仁王立ちで湖からせり上がってきた美女。

 高級なシルクを思わせる白銀の長髪に、整った顔立ち、過剰すぎる訳でも、足りない訳でも無いボディライン。


 成程、確かに、街頭アンケートを取ればほぼ全員が美人と答えるだろう。

 雑誌の表紙を飾れば、間違い無くバカ売れするレベルだと断言できる。


 彼女が、湖の精霊。


「本当に、そこの2人には呆れて物も言えませんわ! 私、今激おこです!」

「すごい怒ってるみたいですよガイアさん」

「だな」

「族長、精霊が怒ると恐いって言ってた」


 まぁおこな気持ちもわかるが、一応聞いておくべきだろう。

 ピノキオの鼻を元に戻しちゃもらえないかどうか。


 ……その交渉をするのも馬鹿らしいくらいこいつらに非があるのだが、一応仕事だ。


「そこのお三方も聞いてくださいまし!」


 しかし、ガイアが質問する前に湖の精霊が話を振る。


「私はディーネ。結構長い事この湖に居候している精霊ですわ」

「居候って表現なのか……」

「ええ。私は元は別の場所で住んでいまして、ここには100年程前に引っ越した形なので、まだ自分のだと名乗れる程の時間は」


 まぁその辺はいいのです、とディーネは逸れかけた話を戻す。


「そっちの子供はほぼ毎日の様に来ては性的な発言や過剰なスキンシップを繰り返し、私が出てこないと湖に潜ってまで……」

「潜ってって……そこまでしてたのかお前……」

「…………」


 否定すると鼻が伸びるからか、ピノキオは黙秘。

 もうその行為が肯定そのものである。


 どんどん呪いを解いてくれと言い出しにくくなっていく。


「そっちの老人もかなり酷いですわ!」

「ちなみにこのじいさんは何したんだよ?」

「その老人は……」





 それはつい数分前の事。


「ああ、困った、今日返却しなければならないDVDを湖に落としてしまった」

「何を嘆いているのですかご老人」


 湖のほとりで嘆く老人に、ディーネは優しく語りかけた。


「おお、あなたが湖の精霊様ですか! ワシは人形技師のゼベットと言います。実はワシ、この湖にDVDを落としてしまって、今日が返却期限なので非常に困っております」

「まぁ、それは大変ですね。私が潜って拾ってきますわ」

「おお、ありがたい! タイトルは『淫乱精霊の妖しい五月雨~私の○○○(ピーー)○○○(ピーー)してぇん~』です」

「っ!!? え、えぇと、は、はい、探して来ますわ……」


 湖内へディーネが戻ろうとしたその時、


「ちょっとお待ちなさい精霊さん! 復唱していただきたい! ちゃんと覚えていただけたか不安です!」

「ふ、復唱ですか? ……そ、それは…ちょっと……大体、湖の底にDVDなんてそうそう有りませんし……」

「確証は無いでしょう!? 万が一のために、さぁ!」


 ゼベットの目には狂気染みた光が宿っている。


「そ、その……あの……い、いんら……」

「もっと熱を込めて! あと恥ずかしがってる感じは残したままボリューム少し上げで!」

「そんな事言われても……って、何ですかその本格的な録音機材!?」

「さぁ、言え! 言うんだ精霊!」

「い、……嫌ですわっ!!」

「ほごぉっ!?」





「……てな感じで、その老人の金的を蹴り倒し、呪いをかけてやったのですわ」

「……もう死ねよお前ら」

「最近の若者はすぐ死ねとか言う! ピノキオはこうはなるなよ!」

「いやじいちゃん、流石の僕もドン引きだよ」


 そんなゲスい事しといてしれっと「孫のために来たんだよ」と嘘を吐きやがったのだから、孫としてもドン引きして当然だろう。


 テレサとアシリアもドン引き中だ。


「本当、どうしようも無い方々です…この呪いを背負って生きる中で、反省し、少しはまともになってくれれば良いのですが……っと、ところで、あなた方は何の御用でしょうか?」

「俺達は便利屋で…こいつの鼻の呪いを解いちゃくれないかと交渉に……」

「……正気ですか?」

「はい、もう帰ります」

「嘘ぉん! 見捨てないでよ!」

「いやもう、お前ら擁護の仕様が無ぇ」


 もう無理だ。

 ピノキオは「湖の中まで精霊を追っかけ回した」という余罪が出てきたし、このジジィの存在もある。


 それに、ディーネが「嘘を吐くと鼻が伸びる」なんて妙な呪いをかけた理由も何となく察しがついた。

 嘘が吐けない正直な人生を歩めば、こんなゲスでも少しはまともになってくれるかも、という淡い希望を持っているのだろう。


「もう! じゃあいいよ! 呪いを解いてくれるまで毎日通いつめてやるぅ!」

「ワシもじゃ! ワシの中の野生が収まるまで足繁く通ってみせるぞ!」


 そんな精霊の配慮など露知らず、とてつもない犯行予告をしてゲスじじぃとその孫は帰っていった。


「……あの、便利屋さん、ですのよね?」

「ああ」

「依頼があるのですが、私にしばらく避難所を提供していただけませんか?」

「当然オッケーですよ」


 あの連中からディーネを守る事に何の躊躇いが必要か。


王宮ウチの庭に、丁度良い感じの泉があります」


 ディーネは、しばらく王宮に匿われる事になった。





「最後にこんな事言うのも難ですが、私……ガイアさんがあのお爺さんみたいにならない事を信じてますからね」

「……アシリアも心配」

「その辺は是非とも安心しろよこの野郎」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ