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第14話 女子力アップ大作戦(神頼み)

「ガイアさん! 私トイレ掃除します!」

「好きにしろよ」


 いつも通りやる事の無いオフィス。


 茶を飲みながら雑誌を読みあさるガイア。

 ミーちゃんを捕獲し、抱いて眠っているアシリア。

 アシリアの怪力の前に脱走を諦め不貞腐れてるミーちゃん。

 そして、デッキブラシとトイレの詰まりを取るアレを持ってるテレサ。


「ノウハウを教えてください!」

「……とりあえず詰まりを取るソレは要らん」


 ソレは掃除用具では無くあくまでトラブルを解決するための物だ。


「ふっふっふ」

「な、何だよ」


 急に勝ち誇った様に笑い出すテレサ。


「詰まりを取るコレの名前は『ラバーカップ』です! 大学生なのにそんな事も知らないんですね!」


 鬼の首でも取ったかの様に自慢げなテレサだが、ガイア的には正直どうでも良すぎて全く悔しくない。


「つぅか、何で急にトイレなんぞ……それに俺がこの前掃除したばっかだっつぅの」


 基本ここでは暇なので、漫画読むかPCいじるか掃除するかくらいしかやる事がない。


「掃除する事に意味があるんです!」

「……はぁ?」

「コレです!」


 テレサが取り出したのは、ちょっと前に結構流行ったとある楽曲のCD。


「トイレを掃除すると……なんと! トイレの神様の御技によって美人べっぴんさんになるんです!」

「……………」


 ああ、何と言うか、子供は純粋に生きてるモンだなぁ、とガイアは思う。


「美人、つまり綺麗! それすなわち女子力の宝庫! 要するに大人なんですよ!」

「いいやお前は純然たるガキだ」

「だから、私はその事実を受け止め、その先へ向かうんです! 悪の組織の美人ボス! 危険な色気溢れる妖艶なダークヒーローへ、私は進化するのです!」


 その精神はご立派だ。

 成長したと言える。


 だが、子供故に発想がまだ子供の域を出れていない事に気づいていない。


「女子力溢れる未来の私を前に、アシリアちゃんは羨望の眼差しを送り、ガイアさんは地を這うんです!」

「這う訳ねぇだろ」


 美人を見たら地を這うって、完全にパンツ見たいだけの変態では無いか。


「いいからそのデッキブラシ片付けてこい。無理難題でトイレの神様を困らせるな」

「そんな無理じゃないですよ!」


 いいや無理だ。

 いくら神様と言えど、テレサを「大人びた女性」に変えるなどという所業は荷が重い。


「とにかく! 教えてください! トイレ掃除の極意を!」

「そんな大層なモンは知らねぇよ」


 ガイアが知っているのはせいぜい基本的な掃除知識とトイレ内で汚れが溜まりやすいポイントくらいだ。


(うーん……何か面倒くせぇなぁ)


 それに、今は気分が乗らない。

 何となくダラダラしていたい気分だ。


 テレサが掃除できないままでもガイアは特に困らないし。


 しかし、このアホはただ制止しても止まるまい。

 適当にそれっぽい理屈で納得させて、諦めさせよう。


「大体な、そんな私利私欲のためにトイレ掃除したって美人にはなれねぇよ」

「な、何でそんな事わかるんですか」


 フゥ、とガイアは溜息。


「冷静に考えてみろ」


 ガイアは雑誌を閉じ、テレサに断言する。


「掃除すりゃ誰でも美人になれるなら、この世に美人じゃねぇトイレ掃除のおばちゃんはいねぇ」

「!!!」


 全国のトイレ掃除おばちゃんには少々失礼だが、このアホに無駄に掃除の仕方教える時間を短縮するためだ。


「清掃のおばちゃんが手を抜いてる訳じゃ決してない。あの人達は清掃作業に命を賭けてるからな(多分)」


 それでも神様が動かない理由、それは―――


「あの人達の清掃作業は仕事…ビジネス掃除だ。金のために掃除している。つまり私利私欲の掃除じゃあ神様の恩恵は得られないっていう生き証人なんだよ」

「そんなっ……!」

「トイレの神様が美人にしてくれるのは、純粋な気持ちで便器と向かい合う奴だけだ。お前と違ってな」

「私は……間違っていたんでしょうか……?」

「ああ、大いにな」


 だから辞めとけ。それだけ言って雑誌を開くガイア。


 ど適当に思いついた事を言ってみただけだが、テレサはアホなので正論っぽく聞こえればそれで納得するだろう。


「……私、心頭滅却して便器と向かい合います!」

「…………」


 ……ああ、アホ過ぎて予想を飛び越えて行きやがった。

 心頭滅却してトイレ掃除ってどんなシチュエーションだ。

 どっかの宗派の苦行か。


「私頑張ります! 美人になりたいという願望を封印し、便器の様に真っ白な心で励みます! という訳でガイアさん! ノウハウを、そして何か伊東家の食卓的な掃除テクを教えてください!」

「…………」


 目的を見失うどころか自分から封印するとか言い出した。

 ここまで見事な本末転倒は初めて見る。

 ……もうこれは、アレだ。こっちが諦めた方が良いパターンだ。

 ガイアは静かに悟った。


「……わかったよ」

「ありがとうございます!」


 トイレの神様とやらにお願いしたい。

 こいつに関しては美人云々の前に、もう少し頭を良くしてやってくれ、と。


 ……いや、いくら神様でも、それは荷が重いかも知れない。




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