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R70,最近のグラビアは過激なの多い(いいぞもっとやれ)

 ダフマの森。ナスタチウム王国に存在する森林地帯。

 中心部に向かう程どんどん背の高い木々が多くなり、一番高い所だともう大体メートルくらいかと見当を付けるのも面倒になる。


 古くから「生命の還る場所」だの「定期的に天界への門が開く場所」だの、とにかく神聖な森であると言う信仰や言い伝えが根強く残っている場所でもある。

 故に、大したモンスターもいないのに、人の手による開発が全くと言って良いくらい進んでいない。


「ぬぅ……にしても、未開の地感が過ぎるわよ……」


 そんなダフマの森の真っ只中。

 藪を掻き分けて現れたのは、上下群青色のジャージに大きなリュックサックを背負った丸眼鏡の女性。首元には小ぶりな一眼レフカメラをぶらさげている。

 年齢は二〇代半ばくらいか。黒ゴムで乱雑に縛った黒髪と、化粧の痕跡が全く見受けられない肌から、大分女子力を諦めている事が伺える。


 彼女の名はリジャーナ。職業はフリーランスのカメラマンだ。ただし、そこらのパパラッチ紛いな連中とは違う。

 彼女のレンズが狙うのは著名人のスキャンダルなんぞじゃない。

 そして、その彼女が狙うに相応しいと思われる獲物が、この森にはいるはずなのだ。


 ダフマの森には、噂がある。

 先に挙げた信仰や言い伝えに比べると軽め、いわゆる都市伝説程度の領域の話だが。


 それは「この森で『精霊の女王』が静かに暮らしている」と言う噂だ。


「精霊の女王……と言うからには、さぞかし見目麗しくて、扇情的なはず……!」


 精霊は基本的に外見が整っている。美形が多い。

 その中で『王』の字を冠する異名を与えられる様な存在だ。さぞかしロワイヤル…素晴らしい容姿をしている事だろう。


 きっと、リジャーナのレンズが…彼女の写真を待つ者達が望む、最高の一枚を撮る事ができるはずだ。


 獲物のためならえんやこらとか何とやら。と言う訳で、リジャーナは「待ってなさい女王…フフフフフフフ」とやや危ない人っぽいテンションで森をかき分けていく。


 すると、急に拓けた場所に出た。


「え……何これ……!?」


 まるで竜巻でも通り過ぎた様な光景だ。

 巨木は尽くへし折られ、草は地面ごとあちこち抉り返されている。


 その破壊の痕跡は、一本の道の様に長く続いていた。

 ある方向から真っ直ぐに、何か巨大なモノが通り過ぎ、道ができてしまった…そんな感じである。


 一体この痕跡が何を意味するのか、リジャーナには全く見当も付かない。

 これが「少し前にとある亡霊忍者が悪竜の王を追走する時に残した破壊の痕跡」だなんて、わかるはずも無い。


 でも、この痕跡が普通の森なら存在するはずの無いモノ、と言う事だけは理解できる。

 つまり、『この森特有の何か』に起因して何かしらの現象が発生し、この光景が出来上がったのだ。


 他の森にあって、この森に無いモノ……いくつか候補はあるが、その候補の中の一つに『精霊の女王』も含まれている。


「……よし」


 リジャーナは精霊の女王を探しちゃいるが「この森のどこかにいるかも」と言う情報以外、宛が何も無い。

 とにかく、宛にできそうなモノは片っ端からすがって行く所存だ。


「あっちの方向だと、森の外に向かう形になるから……こっちね!」


 予想だにしない危険な何かが待っているかも知れない。

 そのリスクを承知の上で、リジャーナは破壊の痕跡に沿って森の中心を目指す事にした。





 しばらく行くと、リジャーナはとある巨木の前に辿り着いた。

 樹齢数万年は下らないか、リジャーナが今まで見てきたどんな木よりも高く、そして太ましい。

 リジャーナが友人とルームシェアしてる2LDKを、幹の中にそのまんま再現してもまだまだ余裕のある規模だ。


 そして、巨木の根元には……


「……コレ、どう見てもドアよね……」


 ノブから蝶番まで、全て木製で拵えられたドアが備え付けられていた。


 外観から把握できる材質から、この巨木とは別の木から切り出した戸である事がわかる。

 おそらく、この巨木には元々大きなうろがあり、それをこのドアで塞いでいるのだろう。


 何故、虚にドアを付ける必要がある?

 決まっている、外界から隔離されたスペースを確保するためだ。

 外界から隔離した場所は、どう使うだろう。

 普通に考えれば、何かを保存するか『生活空間として活用するか』、だろう。


「………………!」


 耳を澄ますと、戸の向こうから物音が聞こえた。


「ビンゴかも……!」


 確実に何かしらがいる。

 しかし、まだ精霊の女王と確定した訳では無い。


 慌てるな私、と自分に言い聞かせ、リジャーナは背負っていたリュックからある物を取り出した。

 それは、一本のテニスラケット…の様な物。フレームやグリップの形状は完全にテニスラケットのそれなのだが、本来はガットがあるべき部分に『魔法のレンズ』が嵌め込まれている。


「ぬふふふ…こんな事もあろうかと、デビコの不思議道具借りて来ちゃったりしてー」


 デビコと言うのはリジャーナとルームシェアしている友人の名だ。魔族の人…いわゆる悪魔であり、デビル忍者とか言うよくわからないジョブを持っている。

 デビコには結構ミーハーな所があり、悪魔界隈の通販で新商品が出ると大体買っちゃう。そしてすぐに飽きてその辺に放る。


 このラケットもその放られた魔法道具の一つ。その名も『ATBあーとーべー02・ツルスケジャネーノ』。

 フレーム中央に嵌め込まれた「こんなに大きい必要ある?」って感が否めない魔法のレンズを覗き込むと、壁一枚分の透視を行えると言う魔法道具だ。ついでに、どう言う理屈か不明だが集音機能も完備。透視先の会話もばっちり盗聴できる優れ物。


「どれどれ……」


 と言う訳で、早速リジャーナは木のドアを透視する事に。

 魔法のレンズ越しに、ドアの方を覗き込む。


 すると……



「ゴルァ! 部屋の片付け済むまでプリンはやらねぇつってんだろうがァ!」

「ふふふ…無駄ですよグリム……いくらあなたでも、この別腹を空かせた『精霊の女王』を止める事はできません……! 大人しくそこを退いてください……!」



「………………?」


 なんだろう、レンズの調子が悪いのだろうか。


 なんか、ゴミが散乱した小汚い室内で、冷蔵庫のドアを死守する黒竜のぬいぐるみと、涎を垂らしながらそのぬいぐるみににじり寄る金髪の幼女が見えた。

 しかも、幼女の方が自身の事を『精霊の女王』とか口走ってた気がする。


 あんなよくわからない状況が現実にある訳が無い。

 気を取り直して、リジャーナはレンズを覗き直す。



「大体、プリンを買って来たのはグリムじゃないですか! 私のグルメ細胞の悪魔を呼び覚ましたのはあなたですよ!? 責任とか感じないんですか!?」

「テメェが『くっ、ご褒美無しの労働を強要するくらいならいっそ殺せ…!』とか喚くからだろうが! お望み通りのご褒美は用意したんだ。いい加減、最低限の整理整頓をする癖を付けろやァ!」

「笑止ッ! 報酬は先払いが基本です! そして当然、成功報酬はその三倍ッ!」

「テメェは殺し屋か! グダグダ言ってねぇで掃除しろ! 仮にも精霊の女王だろテメェ! 清潔さを尊べ!」

「そんなの認めないッ!」

「「!?」」


 たまらず、リジャーナはドアを蹴破ってぬいぐるみと幼女の論争に割って入る。


「ぐ、グリム! 何やらパッショネイトなお客様が!」

「下がってろグラ! おい眼鏡女ァ! テメェ何モ…」

「そんなチンチクリンが精霊の女王なんて、断じて認めないわよ私は!」

「ハァ?」

「チンチクリンって私の事ですか!? だとしたら異議がありますよ!?」

「異議を却下するわ! そして嘘だと言えェェェ! キィエェェェェッ!」

「ひぃっ!? 何かラケットの様な物を振り上げて襲い掛かってきた!?」





「頭ァ冷えたか、イカレ眼鏡」

「はい……」


 グリムに鼻っ柱をド突かれ、リジャーナは鼻血正座。


「つぅか、何でここに来る客は大体テンションがおかしいんだ?」


 今の所、このグリグラハウスを訪れたまともな客は、魔地悪威絶商会メンバーを除くとカラスくらいしかいない。

 まぁ、あの商会の面々が本当にまともかと言われると、少々議論の余地はあるが。


「何よ、さっきから騒がしいわね」


 と、ここで窓辺に置かれていたメロンアイスの容器から女性の声。


「テメェには関係ねぇ。そこで静かにインテリアしてろメゲ公」

「せめてミカゲメロンって呼び方に戻してくれないかしら!? 略し方もだし、なんかメロン要素が先に来てるのにも納得が…」

「はいはい、メゲさんちょっと外に出ててくださいねー」


 進行の邪魔なので、グラは窓を開けてメゲを突き落とす。


「で、あなたは一体どこの何者なんですか?」


 窓を閉めつつ、グラが問う。


「私はリジャーナ・トリマ。フリーでカメラマンやってます……」

「カメラマンだァ?」

「ああ、だから一眼レフのデジカメを下げてるんですね」

「で、カメラマンがこんな所に何の用だよ?」

「精霊の女王がこの森にいるって聞いたから…是非一枚撮らせてもらえないかと……」

「写真ですか? 別に良いですよ。って言うかむしろバッチ来いです! ポーズはどんなんが良いですか!?」

「あ、いいです。もう撮る気無いんで」

「WHYッ!?」

「だって、私が想像してたのと違う……」


 リジャーナはここでゴソゴソとリュックを漁り、一冊の雑誌を取り出した。

 表紙は妖艶な表情と女豹を彷彿とさせるポーズを決めた片手ブラにホットパンツ姿の女性の写真。『内から社会の窓をこじ開けろ』と言う謎の煽り文が付いている。


「んだこりゃあ。何か薄着の人間の牝だらけだな」

「ほほう。これは中々エロスな雑誌ですね。今流行りの着エロって奴ですか?」

「そうそう。ギリギリR指定入らない奴。過激派グラビア誌って感じ? PTAの天敵にして一八歳未満思春期少年ズのマブダチ。で、これが私のメインな取引先な訳。あたら若い少年達が劣情の限りを私の作品にブチまけるとか素敵」

「よ、よくわからない感覚ですね……」

「まぁ、マイノリティな性癖を抱えてる自覚はあるわ。で、私はこの雑誌に掲載してもらえる写真を撮りたいの」

「あー……成程。『精霊の女王』っつぅ肩書きに踊らされた訳か、阿呆くせぇ」

「そうよ……私はとんだ間抜けよ……! 滅茶苦茶ドエロ清いのを期待してたのに……ッ!」


 心底悔しそうに、リジャーナが歯噛みしている。


「何このチンチクリン! 嘘でしょ!? 神様は馬鹿なの!? この雑誌の読者が求めてるのは萌えじゃなくてエロなのよ! 可愛いッじゃなくてエロいィが欲しいのよ! ロリはお呼びじゃないわァァァァァ!」

「ちょっ、待ってくださいよ! 確かに見た目は幼いかも知れませんが、私はこう見えて二万歳越えの立派なアダルトです! 内に秘めた大人の部分にはそれなりのエロい需要があるはず!」

「精霊の平均寿命は?」

「へ? あ、えーと……大体八〇万歳くらいですかね?」

「それを人間に換算すると、まぁ八〇歳くらいって事よね」

「はぁ、まぁ……」

「つまり、あんたは人間換算で二歳児よチンチクリン。受精卵に毛が生えた程度って事。そんな分際でエロ需要? 笑わせないでよ二歳児。あんたなんかより、ここに来る途中の湖にいた大鯰の方が肉付き良くてそそるわよ。子宮に帰れ」

「グリム。この人、殺しませんか?」

「本気の目で言うなよ……」


 しかも、リジャーナは言葉こそ汚いが「幼女の写真をエロ目的の雑誌に使えるか」と言う至極真っ当な事しか言っていない。


「グリムはどっちの味方なんですか!? 私が華々しくグラビア雑誌デビューするの見たくないんですか!?」

「だー、わざわざ顔近づけて喚くな鬱陶しい……つぅか、んな事より部屋片付けろや」

「なっ、せっかく話を逸らせたのに戻さないでくださいよ! あーあー! もうやる気削がれました! リジャーナさんが私の写真を撮って雑誌に載せてくれると約束するまで、私は部屋を片付けません!」

「ふざけんなテメェ。おい、耳塞ぐなコラ」


 グラは耳を手で押さえ、そっぽを向いてしまった。


「……あー、面倒くせぇ……おいカメラ眼鏡。こいつの写真撮れ。んで何でも良いから雑誌に載せろ。じゃねぇと殺すぞ」

「何かあんた、その子に甘くない?」

「うるせぇ。ごたごた喚いてねぇで、さっさと撮れ」

「そんな事言われても、そんな子を載せれる様な雑誌出してる所とコネなんて…あ、そうだ。ちょっとあんた、その子に抱っこされなさいよ。そしたら撮ってあげるわ」

「はぁ? ふざけ…」

「そいやぁぁ! グリム抱っこぉぉぉぉ!」

「のごぉ!? テメェいきなり何しやが…」

「さぁ今ですリジャーナさん! 私がグリムに頬ずりしてる間に! さぁ!」

「アァ!? ざっけんな! 何で俺様が写真なんぞ…」

「じゃあ撮るわよー。はい、マルチーズ。わんわん…っと」






 数日後。


「おいグラ。あのカメラ眼鏡から何か届いてんぞ」

「お! 約束の雑誌ですね! ではでは………………」

「どうした?」

「……『集まれ、爬虫類クラスタ創刊号』……」

「…………………………」


 掲載されていた写真、グラの顔は半分見切れていたと言う。


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