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5話

 出発して、かれこれ二時間ほど経つころ、俺は改めて異世界なのだと実感させられる状況に遭遇した。

 それは――――。


「ブルルルル……」


 目の前で嘶く馬の魔物。

 漆黒の体躯と額から生えた三本の角、そして蹄の部分は鷹や鷲などの猛禽類を連想させる、鋭い爪が生えている。

 この魔物は、俺はES内で見たことがないのだ。

 すぐさま『鑑定』のスキルを使う。


『デンジャラス・ホーン』

Lv:10

体力:150

魔力:50

攻撃力:130

防御力:100

魔攻撃:50

魔防御:50

俊敏力:150

器用:30

運:10

スキル:なし

アーツ:≪突進≫、≪切り裂く≫


 名前がダセェ。

 角が一本で、白い毛並みだったらユニコーンだったのにな。

 それはいいとして、ステータス的には、初心者向けの敵って感じだな。全然雰囲気はそれっぽくないけど。

 それと、ゴブリンにはなかったが、どうやらコイツはアーツを持っているようだ。

 まあ、この二つのアーツがESと同じなのであれば、どれも見慣れたものなのだが。

 ちなみにアーツとは、いわゆる技みたいなもので、使用するのに何かを消費して発動することはないが、それぞれのアーツには待機時間というモノが存在し、一度そのアーツを使用すると、そのアーツの待機時間が終了するまでは再使用ができないのだ。

 さらに、この『突進』のようなアーツは、アーツがなくとも突進すればいいだけのように思えるが、アーツになっているモノは、それだけで威力が上がったり、追加効果が得られたりと、なかなかバカにできない。

 また、スキルは俺の『童子化』のような特殊なものもあれば、『鑑定』のようなモノもあり、魔法も『〇属性魔法』というスキルを習得していなければ使うことは出来ない。

 そして、スキルはレベル制ではないものの、習熟度というモノがあり、これが一定値に達すると魔法スキルなら新たな魔法が使えるようになったり、剣術スキルならそれこそアーツを覚えたりできる。

 


「さて、向こうはやる気だし、この世界で初めての戦いなわけだが……すまない、俺一人でやらせてくれ」

「……主、大丈夫?」

「ああ。今の姿じゃ弱体化しているとはいえ、相手のステータスが見たまんまなら、負けることはない」

「……ん。主がそういうなら、いい」


 シオは、俺の言葉を聞いて頷くと、素直に引き下がった。

 他のメンバーも、異論はないらしく、大人しく下がっている。

 そういうわけで、俺一人がデンジャラス・ホーンと対峙する形になった。


「やる気なところ悪いが、お前には実験台になってもらうぞ」

「ブルルッ!」


 俺の言葉を挑発と受け取ったのか、デンジャラス・ホーンは勢いよく突進してきた。恐らく、アーツを使用したのだろう。

 だが……。


「やっぱ、今の俺には止まって見えるな」


 デンジャラス・ホーンの動きは、俺たちから見ると遅く、余裕で避ける事が出来た。


「ブルッ!?」


 こうもあっさりと避けられると思っていなかったのか、デンジャラス・ホーンは驚いた様子を見せる。


「さあ、どんどん動きを見せてくれ」


 そう言うと、デンジャラス・ホーンは怒った様子で、再び突進してきた。

 その後も、俺は何度もデンジャラス・ホーンの攻撃を見切っては躱すという作業を繰り返した。

 ある程度俺も自分の体にも慣れ、俺の目的は果たせた。

 すると、何度目になるか分からないデンジャラス・ホーンの突進を、俺は避けることをせず片手で角を掴んで受け止めた。


「ブ、ブルルルッ!?」

「やっぱり、ステータスは表記通りか。これは幸運だな」


 デンジャラス・ホーンは全力を出しているようなのだが、正直角を掴んで受け止めている俺からすると、何の変化も感じられない。

 受け止める際の衝撃もまるでなかったしな。

 それほどまでに、デンジャラス・ホーンと俺の間には明確な力の差があるのだ。


「さて……今の段階で調べられるモノは調べられたし……そろそろ終わろう」

「ブルッ!?」


 そう言うと、俺は軽々とデンジャラス・ホーンの角を掴んだまま、持ち上げる。うーん……持ち上げた感覚としては、小枝を持ってるくらいの重さしか感じないな。

 そんなことを思いながら、デンジャラス・ホーンを軽く上空に放り投げた。

 すると、予想以上に高く空に舞った。


「ブルルルルルルルルルルルルルルルッ!?」


 デンジャラス・ホーンの悲鳴が聞こえるが、俺は無視して手を上空に掲げた。


「『鬼火』」


 俺が魔法とは違う、妖術に分類されている『鬼火』を唱えると、掌から青白い炎が勢いよく射出された。

 そして、避けることさえできず、デンジャラス・ホーンは呆気なく燃え尽きた。

 デンジャラス・ホーンが燃え尽きた位置から、光の粒子が漂うと、俺の足元に移動してくる。

 光の粒子がすべて足もとに来ると、そこにはドロップアイテムと思われる品々が転がっていた。


「ドロップアイテム形式か……」

「旦那様、お疲れ様です。見事な手際でした」

「ん? ああ、ありがとう」


 俺は労ってくれたヒスイにお礼を言いつつ、ドロップアイテムを手に取る。

 ドロップアイテム形式の場合、どれだけ大きい魔物でも手に入る素材が限られてきたり、運が絡んできたりするのだが、これは俺だけに適応される現象なのだろうか?

 俺自身は解体なんてできないからありがたいのだが、この世界の住人からするとどうなんだろう?

 まあ誰でも一定水準の物が手に入るって考えれば、それほど悪いことでもないのかもしれないけどさ。そもそも、俺たちが倒した場合のみドロップアイテムになるって場合もあるし。……そうなると、少し慎重になる必要があるわけだけど。

 いろいろ考えながらも、手に取った丁寧に葉っぱに包まれてる肉らしき物を鑑定してみた。


『デンジャラス・ホーンの上肉』……デンジャラス・ホーンのなかでもいい部位の肉。最高品質。


 ……うーん。説明がアッサリしてるな……いい部位ってどこよ。足か?

 ただ、最高品質ってのはありがたいな。


「街に着いたら誰かに調理してもらおうか」

「それがよろしいかと」


 俺は一応最高習熟度の料理スキルを持ってはいるが、やはりこの世界独自の料理を食べたいので、現地人に調理してもらうのがいいだろう。あんまり地球の料理と変わらないと思うけど。

 ESのときは、NPCが運営している食堂でも、美味しい食事が出来たから、この世界もそうであることを祈ろう。なんせ、俺の目的は美味しい食事とお酒を飲むことだからな!

 そこまで考えて、ふとあることに気付いた。

 ……あ、この姿じゃ酒飲めなくね!?


「中止! この姿やっぱり中止だっ!」


 今さらそんなことに気付いた俺は、すぐに元の姿に戻った。


「完全に失念してた……警戒しすぎて俺の目的が達成できないとか笑えねぇ……」

「あ、あの……旦那様? 大丈夫ですか?」

「え? あ、ああ。ゴメン、大丈夫だ」


 ヒスイに心配されてしまった。

 まあ、『童子化』は他の機会で使うことがあるかもしれないし、まあいいや。

 肉をアイテムボックスに収納して、他のドロップアイテムも確認した。


『デンジャラス・ホーンの毛皮』……デンジャラス・ホーンの毛皮。分厚く丈夫だが、重量がある。最高品質。

『デンジャラス・ホーンの角』……デンジャラス・ホーンの角。鋭くて丈夫。最高品質。


「どれもまんまだな」


 初心者向けのステータスだったけど、ドロップアイテムは初心者からすると嬉しい装備にできそうな内容だった。結構いい装備が作れるんじゃないか? これ。

 それらもアイテムボックスに放り込むと、最後に小さな布袋を手に取った。


「これは……お金か?」


 中身を確認すると、硬貨が10枚出てきた。


「……お金はESと同じなんだな」


 その硬貨は、ESでも見慣れた向かい合う二体のドラゴンが刻印されている硬貨だった。

 ESでは、金貨や銀貨といった制度ではなく、1枚の硬貨で『1G』というふうに統一されていた。


「ということは……お金に困ることはなさそうだ」


 なんせ、俺の手持ちには莫大なお金があるからな。

 ESのサービスが終了するって発表されてから、色々な場所を巡ってたら自然と増えたんだよな。使わなかったし。

 それに、今までアイテムボックスに入れてた物も、今は全て城の倉庫に収納してあるから、お金に困ればそこから売ってもいいだろう。


「待たせたな。それじゃあ、先に進もうか」


 別に行き先が決まってるわけでもないが、そう言いながら俺たちは森の中を進んでいくのだった。

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