4話
大広間に行くと、ヒスイたちはすでに集まっており、俺が最後に来た形になった。
「すまない、遅くなった」
「いえ、とんでもありま――――」
そこまで言いかけて、ヒスイは俺の姿を見て固まった。いや、ヒスイだけじゃなく全員だな。
「だ、旦那様……そのお姿は……?」
「これは一応相手の油断を誘うためだ。子供だと、何かと都合のいい時もあるだろうからな。というより、この姿は見たことがあるだろう? 何をそんなに驚く?」
「い、いえ……驚いているのではなく、その……旦那様のお姿が……あの……大変愛くるしすぎるというかなんというか……」
知ってる。俺も自分で可愛いとか思ったからな。
それはともかく、大人じゃなきゃ都合の悪い時もあるだろうが、子どもなら何しても大抵許される。
それこそ、情報を集める時なんかは、無知な子供として振舞えば、相手は無警戒に教えてくれるだろう。
まあ、一番の理由は俺が面白いからなんだけどな!
そんなふざけた理由だとも知らないヒスイたちは、俺の姿に頬を赤く染めている。
正直、自分でもこの子供の姿は相当可愛く見えたから、他の人から見ればより一層そう感じるんだろうなぁ。
完全に他人事な俺は、未だ固まる全員を見渡し、口を開く。
「安心してくれ。この姿でもそうそう遅れは取らないだろう。本当にヤバくなれば、『鬼神化』も使うしな」
「い、いえ、決して旦那様のご意向に不満があるわけではないのですが……了解しました。それで、いかがなさいましょう? みな、準備はできておりますが……」
「なら、早速行こうか。……またこうして……いや、みんなの存在を実感しながら冒険ができるなんて、嬉しいよ」
『……!』
俺の言葉に、全員感無量といった様子。
別に自惚れるわけじゃないが、本当にヒスイたちの俺に対する忠誠やら好感度やらは高いんだなと実感するのだった。
◆◇◆
城の外に出ると、そこは鬱蒼と生い茂る森のなかだった。
そんな中に、ポツンと俺の【酒天城】がそびえ立っているのは、変な感じだった。
「それじゃあ、片づけようか。『収納』」
そう口にすると、みるみるうちに城は小さくなっていき、最終的には手のひらサイズにまで縮んだ。
しかも、縮んだ城は、自動的に俺の手元にまで飛んでくる。
それを、この世界でも使えるアイテムボックスに放り込んだ。
ちなみに、このアイテムボックスは、千種類までなら大きさを気にすることなくいくらでも収納する事ができる。
勘違いしないでほしいのが、千種類であって、千個ではない。
例えば回復薬をアイテムボックスに収納するなら、回復薬は無限に収納できるが、回復薬とそれ以外の何かを収納すれば、アイテムボックスは二枠埋まることになるのだ。
「さて、城も片づけたことだし、早速出発しようと思ってたんだが……」
そこまで言い、俺が一か所の茂みに目を向けると、そこから醜悪な緑色の皮膚を持つ化物――――いわゆるゴブリンという存在が飛び出してきた。
……やっぱり、異世界だとは思っていたが、ESが基本の世界みたいだな。俺のよく知るゴブリンの姿と変わらない。
ゴブリンの存在は、俺だけでなくこの場にいる全員が持つ『索敵』のスキルですでに発見していた。
「旦那様。ここは私たちが――――」
「いや、必要ない」
ヒスイたちが、俺を守るように前に出るも、俺はそれを制してゴブリンに近づく。
近づきながら、ゴブリンに『鑑定』のスキルを向けると――――。
『ゴブリン』
Lv:1
体力:6
魔力:0
攻撃力:5
防御力:3
魔攻撃:0
魔防御:0
俊敏力:2
器用:2
運:1
やはりというか、ゴブリンのステータスは最低値だった。
このゴブリンだけが異常に弱いとかじゃない限り、この世界はESの種族ステータスがそのまま反映されているのだろう。
これはハッキリ言って、ラッキーだった。何故なら、ES基準であれば、俺が負ける要素はほぼないわけで、安心してこの世界を観光できるからな。
ともかく、俺がゴブリンに無警戒に近づく理由。
それは――――。
「ここら辺に人里などはないか?」
――――情報を得るためだ。
ゴブリン相手に何をバカなことを……と思うかもしれないが、俺の職業『鬼神』は、鬼系統の全魔物と意思疎通ができるだけでなく、無条件で相手を支配下に置く事が出来るのだ。
正直、便利を通り越してチートすぎる力であり、オーガやオークを含め、強力な『吸血鬼』たちでさえ俺には逆らう事が出来ないのだ。
つまり、俺がいる限りはフィールドで鬼系統の魔物に襲われる心配はない。
しかも、俺が一方的に狩るのも自由なのだから、凶悪としか言いようがないな。
そんなわけで、ゴブリンから情報提供を受けたわけだが、ここら辺は人里がないらしく、ゴブリンもこの森で人間を見たことがないようだ。
今回は特に殺す必要もないので、ゴブリンと別れると、今度こそ俺たちは出発することにした。
一応、『地図』スキルで移動しながらマッピングはしているので、迷子になる心配はない。
……それよりも、今の俺は子供の見た目なわけだから、ある程度は話し方も気を付けなきゃなぁ。こんな堅苦しいしゃべり方の子どもなんて見たことないしな。いや、いるのかもしれないけどさ。
「さて、どれだけ歩くことになるのやら……」
「アタシは大将と一緒なら、どれだけ歩いたっていいけどなぁー」
クエンの言葉に、全員頷くのを眺めながら、俺たちは森の中を進んでいくのだった。