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日本神話シリーズ

ないものねだり

作者: 八島えく

 彼が――鹿島が持っているもの。


 力、筋力、身長。そういう肉体的な強さ。


 不屈の精神、不動の覚悟、誹りすら笑って受け入れる懐。そういった心の強さ。


 見た目は細く見えるけれど、最低限の筋肉はついている。それなりに力はある。

 背も高い。ひょろりと長くて、小さな僕には塔だと錯覚してしまうほど。


 その精神は、どこまでも揺るぎない。窮地に立っても笑みは絶えず、いかに「卑怯者」と、「外道」と「悪党」と罵られようと受け流して見せるその飄々とした楽観さ。


 ときどき見せる、下卑た表情(かお)

 正々堂々など知りもしない、あるのは勝つか負けるかだけ。

 勝つためだけに、負けるのを避けるためだけに、彼は己の名誉を平気でよごす。

 

 泥をひっかぶり、神格をおとしかねない道を、必要とあらば選ぶ。


 そう。彼は卑怯者。そして敗北を知らない。敗北など知りたくもないのだろう。


 彼は、僕に欠けているものを、全て持っている。

 それが、僕はうらやましい。



 あいつが――諏訪が持っているもの。

 

 それは優しさ、慈しみ、正義、力。


 とても小さく華奢で、童のようにみえるけれど、あいつは誰にも負けない『ちから』を持っている。


 ちから。それはあいつの心。敵にも慈悲をかける懐の大きさ、力を己の為ではなくすべてのために使う献身的なこころ。


 どこまでもまっすぐで、幼くて、純粋でまぶしくて、俺では絶対手に入れることのない、そのこころ。


 欲しい、なんて思うはずは絶対にないのだけれど。

 ときどき、そんな純粋さがうらやましくなる。


 外道になり果てた自分が、いまさら純粋さを求めるなんておかしなことだけれど。


(――鹿島の、苦難さえ笑い飛ばせる強さが)


(――諏訪の、敵さえ慈しむことができるこころが)


 僕にはない。


 俺にはない。


 その強さが、そのこころが、


 欲しいだなんて、思うことはないけれど。


 自分には持っていないそれが、


 ときどき、うらやましくて、悔しくなる。


(ないものねだりなんて)


(俺らしくも、ない)


 だからなのだろうか。


 彼を、


 あいつを、


 愛おしく思ってしまうのは。

建御雷こと鹿島は強さを、建御名方こと諏訪は優しさを持っていて、お互いがお互いの持っていないものを全部持ち合わせていて羨ましいなーなんて思ってたらと思ってできたさんぶつです、はい。

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