03 【ひそやかな決意】
目を開けると薄暗い木目の天上が見えた。そしてリーナンの顔。また泣いている。
「ここは?」
「馬車ですわ。あたしたち、王都に向かっているんです」
身を起こそうとして、激痛に襲われた。
痛みに顔を歪め、ラルザハルは低く毒づいた。ひどい目眩がする。頭の中を細い棒かなにかで掻き回されるような不快な感覚と脱力感。腕にも足にも力が入らない。
「まだ動かないでください。せっかく縫い合わせた傷口が開いてしまいます。ひどいお怪我だったんですから」
裸の上半身にきつく布が巻かれている。何十にも重ねられた細長い薄布には、じんわり血がにじんでいた。
「お前が手当てをしたのか」
「いいえ。王都から来たあの人たちの中に薬師さまがいたんです。……さあ、お水を」
リーナンは水差しを差し出した。
「いっぺんに飲んだらだめですよ。まだお体が弱っているんですから。少しづつ、ゆっくり飲んでください」
ラルザハルは頷くと、言われたとおり、ゆっくりと水を口に含んだ。水はぬるかったが喉が渇いていたためか驚くほど美味だった。
「おまえも捕まったのか、リーナン」
「はい……たぶん」
「たぶん?」
煮え切らない答えに、ラルザハルは聞き返した。リーナンは少しのあいだ考え込むように黙り、しばらくして頷いた。
「お屋敷の敷地の外に出たところで、後からやって来た王都の兵とでくわしたんです」
「王都の兵? 白い鎧ではなかったのか」
「神聖騎士じゃありません。濃い青の鎧でした。二十人くらいいたと思います」
青の鎧とは王都を守る兵、すなわちアカルジャの正規軍のことだ。
「その正規軍の司令官らしいひとに、後で尋ねたいことがあるから、って連れてこられたんです。それで、わたし、ラルザハルさまが刺されるところに……」
再び涙ぐんだリーナンは手で胸を押さえると、何度か大きく息をついた。
「ラルザハルさまの手当てをしたのは、その正規軍が連れてきた薬師さまなんです。屋敷の火も消し止めて……それから旦那さまがたの埋葬もあのひとたちが」
どういう理由で自分が生かされているのかラルザハルには判らなかった。わざわざ傷の手当てをしたということは、いまのところ殺すつもりはないのだろう。
「あの王子はどうした?」
「外にいます。一度、ラルザハルさまの様子を見に馬車の中にも来ました」
「……そうか」
無様にも、自分だけが生き残ってしまった理由があるのかもしれない、とラルザハルは思った。それならそれでいい。
ならば、少しでも早く傷を治し、体力を取り戻す必要がある。
「少し疲れたな……。リーナン、俺は、しばらく眠ることにする」
「はい、そうなさってください」
閉じた瞼の裏、父や母、そしてメイアを思い描いた。それから表情の読み取りにくい、深い色をした、青の瞳を……。
ジャレス――声に出さず、名を呟く。
覚えておくがいい。俺を生かしておいたことを必ず後悔させてやる……。




